悠の詩〈第2章〉

33/80ページ

前へ 次へ


 よく眠れなかった、前日の夜。

 その日の夕方に最後の診察を受けに行って、長い治療とリハビリの日々に終止符が打たれた。(ひと月ちょっとで済んだ、思えば超回復だったんだけど、当時の俺にしてみれば気の遠くなるような期間だった)

 「くれぐれも無茶はしないように」と念を押されたけど、それは約束できねぇと心の中でニンマリとした。

 とにかく右腕を目一杯動かせるのが嬉しくて嬉しくて、夜更けに部屋で何度もボーリングの素振りをする俺、怪しさ満載(苦笑)

 どこまで小学生脳かってくらい気持ちが高揚していて、ようやくうつらうつらし出した時は、外の空がすでに白んでいた。

 だもんで、当日の朝はすっかり寝坊して…かあちゃんに今日の資金をせびるのを忘れてた!!

 焦って階下へ駆ける、時間はまだ10時を回ってなかったけど、すでにリビングにもダイニングにも人の気配はなかった。

 おこづかいは貯めてるけど多分足りない…分かりやすく血の気が引いて、ダイニングテーブルに手をついてうなだれた俺の視界の端に、俺の分の朝食と、そのすぐそばにメモ書きと五千円札が1枚ポンと置いてあるのが見えた。



(春海へ。
 たっくんのお母さんと出掛ける用事があるので
いってきます。
 何度も起こしたけど、あんた全然起きないから。
 おこづかいあんまり残ってないでしょ?
 これで今日のお昼とボーリングをまかないなさい。
 余ったら返す事。無駄遣いはしないように。
 かあさん達は夕方頃帰ります。)



 さっすがかあちゃん、用意周到、お見事。ありがたく五千円札を握りしめた。金欠だからって断る事になったらカッコ悪ィや。





33/80ページ
スキ