悠の詩〈第2章〉

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「さそり座…いいえ私は~、さそり座の女~♪の、アレ?」

「ふ…っ! 何故にそんな古いセレクトを?? 真面目に話してんのに(笑)」

「うるせーなー、うちの親が…とうちゃんがその歌よく口ずさむんだよ。
 かあちゃんが【あたしへの当て付けか!】って言うのがお約束で…かあちゃんさそり座でさぁ」

「クックックッ、キミのご両親、やっぱりオモシロすぎる(笑)(笑)」

 他の皆には届かないような声で、柏木はいつまでも肩を揺らして笑う。

「ったく…ちょうどかあちゃんの話になったから思い出したよ、そろそろ家帰らないとやべぇわ」

 病院に行ったまま、何にも連絡をしないでさすがに心配してるはず。かあちゃんの雷を覚悟しながら、階下へ足を向けた。

 同時に、柏木が体ごとこちらを振り返る気配を感じた。

 そのまま帰る事も出来たのに、なんでか気になって俺も振り返る。

 ここでやっと、まともに視線が絡んだ。

 そんなに離れていないのに柏木の顔は闇で黒ずんで、表情が読み取りにくい。

 が、あの時と同じ眼差しを多分していると直感した。

 俺が振り向くと思わなかったんだろう、数秒柏木は黙ったけど、やがてまた、ひとりごとのように言った。





「まあ、分かるよ、色んなヒトのを見てきたから。そのぐにゃりとした感情を。
 乗り越えたヒトと…
 そうじゃなかったヒトと…
 両方を知っている。
 キミは…
 どうやら大丈夫なヒトのようだ。何があったか知らないけどね」





 また…詩人みたいな口調をするなと思いながらも、柏木のこの言葉はすっと俺の心に入った。

 試合残念だったとか怪我がどうのとか全然言わないのも、コイツらしくていいかとも思った。





 いつか、この年の夏の事を笑って話せるようになれたなら。

 立ち直れたのは、○○くんと、コタ先生と、心配してくれた樹深や由野、はっきりとした言葉こそなかったが柏木のおかげも、あるんだろう。





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