悠の詩〈第2章〉

22/80ページ

前へ 次へ


「あーうん。心配かけて悪ィ。段々良くなってきてるんだ、リハビリ頑張ってる最中だよ。
 今日も病院の帰りでさぁ…駅でコ…土浦先生にバッタリあって。あれよあれよという間にここに連行された(笑)」

 俺のいつもの調子に心底安心したみたい、樹深と由野はケラケラと笑う。

 コタ先生の方を見ると、何で部外者をここにって抗議する先輩達を「まぁまぁちょっとだけ、いいじゃないか」となだめていた。

 俺と目が合ったら、汚いウィンクを寄越してきた(笑)

「あっ、一番星!」

 誰かがそう叫んで、俺とコタ先生以外全員が、太陽の光の届かない群青色の空を見上げた。

 あれ、星図に載ってないよ…とざわつく中、

「あれは…土星だね。輪っか見えるかな? 望遠鏡で見てみてごらん」

 千晴先生がそう言うと、二台しかない天体望遠鏡に部員が群がった。

「おいおい、お前らは小学生か。順番が回って来るまで、他の星座探してりゃいいだろ。
 あ、約束通りおにぎりとお茶を…適当に買ってきたから、ケンカしないで分けろよー」

 そう言ったコタ先生の所にも部員が群がり(笑)

 おにぎりとペットボトルを手に持ちながら、望遠鏡土星観測チームと、肉眼星座観測チームとに自然に別れて、どっちの輪にも入れない部外者の俺。

 なんとなく金網の方へフラッと寄っていって、完全に陽の沈んだ町並みを眺めた。家の灯りがポツポツと浮かび上がる。

 と、突然俺の横から差し出された、ひとつおにぎりの乗った手。

「ん」

 という声と共に、その手は上下に軽く揺れた。





22/80ページ
スキ