漆黒の王女〈後編〉
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「姫様、楽しそう」
イオさんが戻ってきて、僕達の為のお茶をセットしてくれた。
「うん。ここのところ忙しかったから。
サザンと話すとほっとするよ。あの頃に戻ったみたい」
そう言ってシーナは、僕の村の方角をぼんやり見つめた。
城主になった以上、自分本位でお城を放ったらかすわけにはいかないシーナ。でも、多分、皆に逢いたいんだろうな。
「ねぇシーナ。僕、これからは前よりもっとこっちに来れるよ。
実は僕、こっちの集配人になって欲しいって頼まれてて。グライダーで来れるからね」
「えっほんと」
「うん。でも、気球が出来るまでの間ね。気球が出来たら…すぐに皆に逢えるから」
「そっかぁ…うんわかった。ふふ…相変わらずサザンには見抜かれてしまうな(笑)」
「まあね~」
僕達は笑い合って、ごはんを粗方済ませた。イオさんの用意してくれたお茶をすすりながら、シーナが話し始める。
「サザン…さっきの続きだけど。
気球が出来たら? サザンは集配人を辞めて…その後は?」
「んー? 僕ねぇ…ちょっと考えてることがあってね」
「うん。なになに?」
「僕がもう少し大きくなったらだけど…海の向こうへ行って、世界の隅々まで回りたい」
「うん」
「色んな人に逢って…色んな物を見て…技術をこっちにもいっぱい広めたい。
親方の地図も、世界の果てまで書き込めるようにしたいなぁ」
「うん。そっか」
「あ、出来っこないって思ってる?」
「ふふ。そんなことない。サザンなら…やれるよ。
でもね…
それ、実は私も考えてる(笑)」
「えっ! シーナが? 海へ出るの??」
「うん。今すぐは無理だけど…いつかは。
私達一族は代々閉じ込もってきたけれど…外との交流を広げていこうと思ってる。
あー、でもどうなるかなぁ、そうする為に色々問題を片付けなきゃいけないんだけどねぇ…」
シーナは腕組みをしてうーんと唸る。
「そうだねぇ…難しい事は分かんないけど。おじさんに相談してみたら?」
「そうだね…そうしよう。
…ふふ、おじさまにはずっと頭が上がらないなぁ(笑)」
今はそれぞれ違う生活をしてるけど…見つめる先が同じな事、僕はひっそり嬉しい。
シーナには内緒。
…