漆黒の王女〈後編〉

71/72ページ

前へ 次へ


「姫様、楽しそう」

 イオさんが戻ってきて、僕達の為のお茶をセットしてくれた。

「うん。ここのところ忙しかったから。
 サザンと話すとほっとするよ。あの頃に戻ったみたい」

 そう言ってシーナは、僕の村の方角をぼんやり見つめた。

 城主になった以上、自分本位でお城を放ったらかすわけにはいかないシーナ。でも、多分、皆に逢いたいんだろうな。

「ねぇシーナ。僕、これからは前よりもっとこっちに来れるよ。
 実は僕、こっちの集配人になって欲しいって頼まれてて。グライダーで来れるからね」

「えっほんと」

「うん。でも、気球が出来るまでの間ね。気球が出来たら…すぐに皆に逢えるから」

「そっかぁ…うんわかった。ふふ…相変わらずサザンには見抜かれてしまうな(笑)」

「まあね~」

 僕達は笑い合って、ごはんを粗方済ませた。イオさんの用意してくれたお茶をすすりながら、シーナが話し始める。

「サザン…さっきの続きだけど。
 気球が出来たら? サザンは集配人を辞めて…その後は?」

「んー? 僕ねぇ…ちょっと考えてることがあってね」

「うん。なになに?」

「僕がもう少し大きくなったらだけど…海の向こうへ行って、世界の隅々まで回りたい」

「うん」

「色んな人に逢って…色んな物を見て…技術をこっちにもいっぱい広めたい。
 親方の地図も、世界の果てまで書き込めるようにしたいなぁ」

「うん。そっか」

「あ、出来っこないって思ってる?」

「ふふ。そんなことない。サザンなら…やれるよ。
 でもね…
 それ、実は私も考えてる(笑)」

「えっ! シーナが? 海へ出るの??」

「うん。今すぐは無理だけど…いつかは。
 私達一族は代々閉じ込もってきたけれど…外との交流を広げていこうと思ってる。
 あー、でもどうなるかなぁ、そうする為に色々問題を片付けなきゃいけないんだけどねぇ…」

 シーナは腕組みをしてうーんと唸る。

「そうだねぇ…難しい事は分かんないけど。おじさんに相談してみたら?」

「そうだね…そうしよう。
 …ふふ、おじさまにはずっと頭が上がらないなぁ(笑)」

 今はそれぞれ違う生活をしてるけど…見つめる先が同じな事、僕はひっそり嬉しい。

 シーナには内緒。





71/72ページ
スキ