漆黒の王女〈後編〉
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「エルさん、なんだって?」
「うん…来月、こっちに帰れるって。
それから…ほら、また絵を描いてくれた」
シーナが便箋と一緒に入っていた紙を広げて僕に見せた。
「風船がいっぱい。でも、変わった形の風船だね?」
「あっシーナ、これ気球だよ! わあ、すごい!」
「気球??」
「そう。熱気をこの上の部分へ上げてね、袋が膨らんだ浮力で飛ぶんだ。
このカゴ、ゴンドラっていうんだけど、ここに人が乗るんだよ。
実はね今、アストラおじさん達がこっちで飛ばす為の気球を作ってるんだ」
「え、ほんと!?」
「完成はもう少し先だけど…そしたらね、実験的にルニアと漆黒城の間で飛ばすんだって。
上手くいけば…空での配達が出来るし、森の中を通らずにお城に簡単に来れる。
親方達やおじさん達にも、シーナ頻繁に逢えるようになるよ」
「わあ…そうか、だからおじさま、お城の広い所とっといて、なんて手紙に書いたんだ(笑) すごく楽しみだなぁ…
あ、サザン座って座って。おかみさんのお弁当食べよう?」
僕達はやっと席について、食べながらまだ話は尽きない。
「そうそう、それから…これ、やっぱり返す」
「え?」
腰に着けてたバッグから取り出した物を、シーナの手元に滑らせた。
秘密の部屋で見つけた、シーナとねえさんの絵。
「サザン…なんで?」
シーナが首をかしげる。
「だって…僕の家には合わないよ。なんか、格式高くって。
それに…
お父さんが描いたんでしょ? それ」
「!」
そうなんだ、絵の裏に【Dalfone】、シーナのお父さんの名が記してあった。
「お父さんの遺品だよ…シーナが持ってないとダメだよ。
それにしても、シーナのお父さん、エルさんみたいに上手なんだね。
あ、だからシーナはエルさんの事気に入ってるんだ?」
「なっ。やだな、サザン。私と彼はそんなんじゃ…ちがうんだってば」
シーナが顔を真っ赤にしながら否定するのが可笑しくて、僕はケラケラと笑った。
僕の家に置きっぱなしの、エルさんが描いてくれたスケッチも、一緒に持ってくればよかったかな。
でもあれは…出来れば、僕がずっと持っていたい。
あれには、僕と一緒に過ごしたシーナが沢山描かれているから。
…