漆黒の王女〈後編〉
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●月○日
シーナが少しずつ持ち直してきた。
でも城主さまは…
お願い、お食事を摂って。
●月△日
夜中に園庭で怪しい人影。なんだろう。
すぐにいなくなってしまった。
●月X日
また園庭に怪しい人影。
よく見たらひとりはこのお城の庭師。
こんな夜中に何を…
城主さまに報告しよう。
●月□日
なんてこと、とんでもない話を聞いてしまった。
お城が燃やされる。
逃がさなければ。
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日記はここで終わっていた。ノートの半分近くが白紙だ。
胸ポケットにしまっていた、家に落ちていた僕への手紙を広げる。
この手記と筆跡がおんなじ。ヨレヨレの字。
それから日付が…僕と親方がシーナを見つけた日の、1週間ほど前だった。
「………」
僕はしばらくノートの余白を見つめて、静かにそれを閉じた。
これまでの事を思い興して…涙がボロッと落ちそうになるのを、僕は慌てて手の甲で擦った。
でも間に合わなかった、一滴、落ちてノートの表紙を弾いた。
──僕に泣いている暇はない。
僕は、日記に書かれていた、この小部屋にあるという抜け道を探し始めた。
隠し扉の開け方が分からなくて、もう向こうへは戻れそうになかった。
それなら、抜け道を通って別の所へ出た方がいいと踏んだ。
「…あ!」
あった。机の下の空間の壁に、目立たない切り込み。
そこをドンドンと叩くと、壁がメリメリと音を立てて、切り込みの範囲で向こうへ倒れた。
大人は通れない、僕なら匍匐前進で行けそうだ。
どこに出るか、日記によれば広いテラスに出るはず。グライダーもあるのではないか? いや、火事で焼けたかもしれない。
腕や足を擦り、頭を沢山打ちつけながら、僕はこの細く狭いトンネルを進んでいく。
目に見えない、ねえさんに導かれている気がして、僕は心のどこかで安堵していたんだ。
…