漆黒の王女〈後編〉
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X月○日
抜け道の存在を知ってから、私は無意図で
他の抜け道も何個か見つけた。
通れそうなものもあったけど、私は抜け道の先を
知ろうとしなかった。
シーナの横で王族学を知っていく内に、
このお城やシーナ達漆黒の一族の歴史も
だんだんと分かるようになった。
ここは小さな小さな国のようなもの、
お城に携わった者は一生をここで終えるのだ…
私もそうだろうか…?
もしお城の外へ出られる抜け道があったなら。
それだけを私は知っていればいい。もしもの為に。
X月□日
シーナが勉強の息抜きにと、あの小部屋の抜け道の
先にあるグライダーの所へ連れていってくれた。
抜け道は通れないので城内をくねくね…
辿り着くまでに時間がかかった。
城主さまの執務室のすぐそばにある棟の
広いテラス、グライダーは白い羽をめいっぱいに
広げてそこに置かれてあった。
「見て。こうやって飛ぶの」
そう言ってシーナがグライダーを持ってテラスを
飛び降りたから、私は息が止まるかと思った。
シーナは鳥のように空中を滑って、
風に吹き上げられて上へ飛んでいった。
呆然と見上げる私にシーナが手を振ると、
「姫さまー!
グライダー禁止ー!
その格好ではしたないですぞー!」
中庭から城主さまのお付きのじいやが叫んだ。
シーナは苦笑いをしながら、
「ママにちょっと見せるだけだから、
見逃して!」
お妃さまの寝室のある棟へ飛んでいってしまった。
なんて綺麗な飛び方。
あれで私の家の方へも飛べるだろうか。
ここからすごく日にちが空いて…その次の日記から、様子が変わった。
あんなに丁寧だった文章が簡潔的になり、整った文字が崩れ出したのだ…
◇月X日
お妃さまがお亡くなりになった。
命の灯火が次第に消えゆくのを、
城主さま、シーナ、私が傍で看取った。
◇月△日
シーナがお妃さまの墓前から離れない。
城主さまも執務室に籠りっきり。
おふたりを支えなければ。
私はこのお城にいなければ。
僕は気付いた…
ここの手記が、ねえさんからの手紙が来なくなった時期と重なっている事に。
…