漆黒の王女〈後編〉

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 ねえさんの日記は飛び飛びで、印象に残った出来事や心の動きを書き残しているようだった。



   △月○日

 お城に勤めてふた月経った。
 私と同じように呼ばれた皆は帰されてしまった。
 私だけ、もう1年お城に残るよう命じられた。
 サザンに手紙を書かなくては。
 それから親方やおかみさんにも。
 サザンの事を頼まなくては。



   △月X日

 城主さまにお妃さまと姫がいる事を知る。
 試用期間には全く見かけなかったが、
 私が動いていた所とは別の棟で
 暮らしていたようだ。
 お妃さまが病気で長いこと臥せっておられて、
 その傍らを離れない姫を支えて欲しいと…
 姫のお付きになる事と、
 お妃さまの身の回りの世話の補助が、
 私の今度の仕事となる。



   △月□日

 お妃さまと姫と初対面。
 お妃さまは柔らかい茶色の髪を携えて、
 透き通ったスミレ色の瞳をした美しい人。
 姫は城主さまの黒をしっかり受け継いだ
 黒髪黒い瞳。でもその中に柔らかさを感じて、
 そこはお妃さまに似ているのかもと思った。
 ユリシーナ王女。私のひとつ下の18歳。
 王女さまと呼んだら、そんなかしこまった
 主従関係を望んでいないと言われた。
 私は少し考えて、言った。
 「わかりまし…わかったわ。シーナ」
 それを聞いたシーナはパッと笑顔になって、
 お妃さまもベッドの上から微笑んでくれた。
 おふたりの笑顔はなんて美しいんだろう。
 おふたりのために、1年またがんばろう。





 シーナ、シーナの名付け親はねえさんだったんだね。

 シーナが時折夢で逢っていたシーナのお母さん、この日記で人柄が手に取るように分かる。

 まるで僕もその場その時間にいるんじゃないかってくらい、ねえさんの文章に僕は引き込まれていった。



 姉のザザの日記はまだ続く…





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