漆黒の王女〈後編〉
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(時間は少し遡る…)
カビ臭い地下道の終わりが見えた。
突然行き止まりになって、石造りの壁に細い鉄のはしごが掛かっていた。
ものすごく長い、外へ出るのにどれだけの時間を要するんだろう。
どこへ導かれるか分からないが、とにかく僕ははしごを登り始めた。
壁から滲み出る水がはしごにも伝って、気を付けないと手や足を滑らせてしまいそうだ。
僕は慎重に登っていく…暗闇ではしご以外視界に入らない…
結構な高さを登ったはず、とふと足元に視線をやった時に、ごん、 と鈍い音を立てて僕の頭頂部に痛みが広がった。
「いたたた…」
一瞬光が差して、また暗闇に戻った。
すぐ上を手探りすると、石ではなく木の板が触れて、軽く押しただけでそれは上に浮き上がって、四角に縁取るように光が差した。
がたん! と僕は木の板を跳ね上げた。
雨上がりの匂いが僕の鼻を掠めて、あ、外に出られたと安堵する。
迂闊だったのが、今派手に音を鳴らして、誰かに気付かれたかも? 忍んで侵入してるのに馬鹿だな、と思ってももう遅かった。
だけど幸運な事に、近くには誰もいないようだ。
地下道の出口から身体を出して、雨に濡れた芝生の上に立った。
ここは…庭?
丁寧に剪定された植え込み、規則正しく並ぶ花壇、色採りどりに花が散りばめられているアーチなんかもあって、庭と言うには広過ぎるし、綺麗過ぎた。
そして…
「…なにあれ…」
庭から少し離れた、絶壁沿い段違いに建てられているものに、僕は息を飲んだ。
──煤だらけで真っ黒のお城。
【城自体は普通で、ちっとも黒くなんかなかった】とおばあさんは言ってたけど、おばあさんが知らない間に本当に漆黒城になっちゃったんだろうか。
…