漆黒の王女〈後編〉
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床にグリグリと額を擦り付ける私を見て、ゼノスもガルバも下劣に笑った。
ガルバが私を後ろから持ち上げて、顎を掴んでゼノスの方に向けさせる。
ゼノスはデスクから離れて私に歩み寄り、また杖を…今度は私の額に持ち手を押し付けた。
「くっくっ…そう、そこだ。そこに呪いを込めた…
お前、何故知っている? まぁいい…
ダルフォンにも…ダルフォンの妻にも…自然死に見えるような弱い呪いを…世界を回っている時に何とはなしに覚えた呪いをな…くっくっ。
十年ほどは要すると踏んでいたが、こんなにも時間がかかり…やっとで苦しみを見せたのが、お前の母親だったな」
点と線が繋がり出した。
ママと、それを追ってパパも日に日に弱っていった事。
私達一族が誰かに暗殺を目論まれているとザザが言った事。
私の額の奥がまるで生き物みたいに暴れる事。
全部全部、ゼノスの怨みによるものだったんだ…
「私はずっと待ち望んでいた…この城から黒が全て消える日を…
お前の母親はふた月半以上前にやっと命を終えたが…
ダルフォンとお前は…いつまでも呪いの兆しが見えず…
いやダルフォンは、妻を失った事で呪いに関係なく弱っていったが…お前は?
自分の身体の異変を悟ったダルフォンは、18のお前に王位継承の為の学びの期間を焦るように言い渡した…
近い内にダルフォンの後を正式に継いで、漆黒の王女として君臨するのは間違いない…
それではまた、黒を根絶やしにする機会を失ってしまうではないか…
そこでまた、私は動いたのだ…
そう、あの夜、この城に残るありとあらゆるものを燃やし尽くしてしまえと…!!」
あの真夜中の旅立ちの日の事が、走馬灯の様によぎった。
【お願いよシーナ、これで遠くへ、出来る限り遠くへお逃げなさい】
どこからともなく漂っていた焦げたような臭い。ザザの必死な願い。これからひとりで旅立とうという私の不安な心。
どれも、今、鮮明に思い出したのだ。
私の左耳の、ザザがあの日付けてくれた夕陽色のピアスが、微かに震えた気がした。
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