漆黒の王女〈後編〉

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 私が僅かに頷いた事など、ゼノスは気に留めやしない。私の質問に全て答えるなんて言いながら、こっちの話を聞く耳なんてありはしないんだ。

 だけど私は私で、色々疑問は沸くけれどそれを質問にまとめる余裕が無かった。ゼノスの信じられない話を聞くだけで精一杯なんだ…

「話し合った末…私が城へ働きに出ることになった…
 世界を回り様々な景色を見てきた私は、城の庭師を命ぜられた…
 ダルフォンと同じ顔と気付かれるのが嫌だったので、私は特殊なマスクを身に付けて仕事を努めた…誰もそれが偽りの顔と分かる者はいなかった…

 時々、ダルフォンが身重の妻を連れて庭を散歩していた…挨拶程度しか私とダルフォンは交わる事は無かったが…
 ダルフォンの妻は…明るい茶色の髪にスミレ色の瞳が透き通るように美しい女性だった…
 ダルフォンが何故古い規律を破って彼女を迎えたのか…両親の死の真相を知ったのか…それとも…
 分からぬがともかく、ダルフォンの黒へのこだわりが無いと知って、忌まわしい城にいたにも関わらず私は平穏であった…

 やがて…
 新しい命が誕生した…そう…お前の事だ」

 ドクン。

 ゼノスの話の延長上に私が現れるなんて事は予測の範囲内だったはず、それでも、私の心臓は嫌な音をたてた。

「私は…ダルフォンの妻に似た子を望んだ…
 だが…
 お前というやつは…
 ダルフォンの、漆黒の一族の遺伝子を丸々受け継いで生まれてきた…
 薄れて消えたはずの、私の中の黒への怨念がくすぶるではないか…

 私は…
 ひとつの決心をする…
 人知れず…一族の根を絶やしてやると…
 くっくっ…

 まずはユリシーナ、生まれたてのお前に忍び寄り…
 呪いをかけてやった」





 ゼノスの話に反応したのか、私の額の奥の奥が、今までにないほどの大きなうねりを見せた。

 私は途端に血の気が引いて、また頭を床に転げた。

 ──ルニアの占いのおばあさまが言っていた事と、やっと繋がった。

 私に見えない呪いをかけたのはゼノスだったのだ。





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