漆黒の王女〈後編〉

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「な…にを」

 言っているんだろう。

 言葉が続かない私に、ゼノスは蔑んだ瞳をよこした。

「くっくっ…知らない話だったか?
 そうだろうよ…お前の父も知らずにこの城でぬくぬくと暮らしていたのだ…
 …レグルス家は…漆黒の一族というのは…汚れたものをひた隠しにするのがうまい…」

「ゼノス兄ぃ、言う? 全部言う? ひひひひひ」

 大男のガルバが部屋の隅からゼノスのいるデスクの脇まで来て、さもおかしそうに私とゼノスのやりとりを見物する。

「ふ…そうだなガルバ…ダルフォンにも全ては言わないままだった…
 たったひとり生き残ったこの黒い王女には、漆黒城の闇を思い知らせるべきかもしれないな…」

 窓からの月の光を浴びて青白い顔をしているゼノスを見ながら、私は最悪の事態を予測する。

 たったひとり、って言った?

 パパは? ザザは? 城の人達は?

 私があの日、グライダーで飛び立たされたあの後、何が起きたの?

 そんな私の胸中を気遣う訳がなく、驚く話は、まだゼノスの口から零れ出る。

「何故…黒から緑が生まれたのか?
 ただの突然変異なんかではない、ちゃんとした理由がある…
 先代の王妃…お前の祖母ということになるが、どういう人だったか聞いたことはあるか?」

 サガンの突然の質問に少し頭が混乱する。

 私のおばあさま。私が生まれるずっと前に病気で亡くなったと父から聞いている。城に飾られている絵でしか見た事がなかった。

「そう…美しい黒髪と黒い瞳を携えた女性として王に見初められ、城に迎えられたその女は…
 ウソをついていた。
 王の心を手に入れる為…
 自分の本当の色を隠したのさ。
 深く暗い森の色を、真っ黒にベタベタに染めた、
 馬鹿な女よ。
 ずっと…王と…息子と…城の者を欺いていた…
 ある日…その事が王にばれて…





 王妃は王によって始末された」

「…!!」

 ゼノスはどうして、そんなに詳しいんだろう。





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