漆黒の王女〈後編〉

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「…うっ…う…ん…ん…」

 目を開けたけど、まぶたは重く、視界はぼけていた。

 私、何を、どうしてた…?

 身体も鉛のような感覚、それでも少しだけ身をよじってみると、ジャラジャラと金属の音がした。

 目だけをウロウロさせて、今の自分の状態をゆっくり確認する。

 私は、足首と後ろ手に錠をされ、うすっぺらい赤いカーペットの上でうつ伏せに転がされていた。

 そうだ私、あの男に。

 急に、意識を失う前の出来事を思い出して目を見開いた。

 変な薬を嗅がされて、まだ効力があるのか身に全く力が入らない。

「くっくっ…無様な姿よ」

 その声にはっとして、起き上がれないから引きずるようにして顔だけそちらに向けた。

 声の主は大きな窓のそばに立っていて、逆光で黒ずんでいた。顔がよく見えない。

 私をさらった男ではないみたいだ…体格がまるで違う。

 コツコツと靴を鳴らしながら、彼が私に近づいてきた。

 足元だけが私の瞳に大きく写り、次の瞬間、何か固い物で顎を掬い上げられた。

「ふ…っ、この忌々しい黒にまた目にかかろうとは。
 あの時に消えてなくなればいいものを。悪運の強いやつ。吐き気がする」

 冷たい声、冷たい言葉にゾッとした。

 この人は一体誰?

 私の顎を上げているのが杖の持ち手だと分かって、私はそれの先を辿って声の主の顔を視界に捕らえた。

「…っ!!」

 息が止まるかと思った。

 彼の顔を見た途端、どんなに思い起こしても復活しなかった私の記憶が、堰を切ったように蘇ったから。

 同時に激しい頭痛が襲って、手を拘束されているから頭を押さえることが出来ず、カーペットの上をのたうち回った。

 そんな私をせせら笑いながら見下ろしている彼に、私は息絶え絶えに呻いた。





「…なぜ…?
 ………パパ………」





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