漆黒の王女〈後編〉
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「あぁ、あたしばかりが話してごめんだったね。
もう尽きたから、今度はサザンが話を聞かせておくれ。
あんたはどこから来たんだい? どうしてこんな所で迷っていたんだい?」
おばあさんは話し終えて、自分のロッキングチェアに深く腰を沈めた。僕を優しい眼差しで見つめる。
「あの、おばあさん。服、乾いたみたい」
僕は立ち上がって、借りてたシャツを脱いで元の服に着替えながら言った。
「実は僕、お城へこの手紙を…ルニアの集配所に取り残されていて、後を追ってきたんです。
でも僕、まだ新米だから、お城へのルートをちゃんと把握出来てなくて…
それでここに迷ってきたんです」
ボウガンホルダーをまた身に着けながら、ホルダーのベルトに括り付けていた小さなカバンの中から、しわくちゃのねえさんの手紙を取り出してかざした。
こんなにも、スラスラとウソが出る。
「おやまあ、そうだったのかい。なら、行かないとだね。長い話に付き合わせてごめんだったね。
抜け道を使うといい。この家を出て左へ少し進んだ所に水車小屋がある。中に床下の扉があるから、そこから地下を通って城へ抜けられる」
「えっ…僕も通っていいの」
びっくりして聞き返すと、
「まだ雨降ってるようだし、また濡れたら困るだろう?
いいよ。誰も怒らないよ」
ニコニコしておばあさんは言った。
「分かりました…ありがとう、おばあさん」
「もし向こうで、二人の息子に会ったら、母さんが心配してたと伝えておくれ」
おばあさんの声を背中に受けて、僕のウソを信じたおばあさんに胸をチクンと痛めながら、僕は外へ飛び出した。
おばあさんの言う通り、水車小屋も床下の扉もそこにあった。
扉を開けるとカビ臭がもわっと漂って、鼻と口を手で覆いながら僕は地下へ潜り込む。
さっきのおばあさんの昔ばなし。
黒髪と黒い瞳のシーナが記憶を無くして僕の所にやって来た事。
得体の知れない大男がシーナを知ってるかもしれない事。
ねえさんが【永久に家に戻れないかもしれない】と手紙に書いた事。
一見バラバラのようだが、深く、見えない所で繋がっている気がするんだ。
シーナ、シーナは漆黒の一族の血を引いていて、何か陰謀のようなものに巻き込まれたの?
どこか遠くでぴちゃんぴちゃんと水の跳ねる音を聞きながら、僕は終わりの見えない地下道を走っていった。
《Continued to another point of view…》
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→【漆黒の王女】中間雑談・10
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