漆黒の王女〈後編〉
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その時、旦那は外出中でね。帰ってきたら、この頼まれ事を快く受け入れてくれるだろうか、不安だった。
ところが、そんな事なんてすっ飛ぶくらい、旦那はとんでもないものを連れて帰ってきた。
森に捨てられた赤ちゃん。
まだへその緒がついていて、本当に生まれたばかりのようだった。
森のやつらの餌になんかさせられない、なあ、ここで育ててもいいか。
急いできれいなお湯で洗って布にくるんで、お妃さまの連れてきた子と並べた。
ここでやっと旦那は、もうひとりの赤ちゃんの存在を知っておったまげてね(笑)
あたし達がここでこの子達を育てる運命なんだろうと…二つの命を大切にしていこうと決めたんだ。
それがさっき話した、二人の息子だよ。
二人ともよく育ってくれた…血の繋がりはないが、自慢の息子だよ。もういい大人だがね。
城に勤めに出た方は、本当は禁止されているのに、あたしの身を案じて時々抜け道を通って帰って来てくれる。
もうひとりのでかい方は、さっきも言ったが、亡くなった旦那の後を継いで仕入れだなんだしてくれる。
最近…城で改修工事が始まるとかで…でかい方も城へ行く事が多くなってね。
さっきも、城に届け物があるって言って、家にも入らないでそのまま行ってしまったんだ。
その後でひどい降りが来て…戻ったのかと思ったら、あんただったってわけだ。
「そう、なんですね」
言いながら、僕はおばあさんに知られぬように仮説を立てる。
僕の家の軒先で見た大きな靴跡。もしあれがおばあさんの息子のものだったなら。
ルニアに現れた、シーナを知っているかもしれないという大男。もしそれがおばあさんの息子だったとしたら。
ねえさんの手紙を持っていて、丸めて僕の家の中に投げ捨てた。もしそれがおばあさんの息子だったとしたら。
息子は城から頼まれて、シーナをずっと捜していたんだろうか。
それでやっと見つけて、連れていってしまったのか。
そうだとしても、シーナが僕に黙って家からいなくなったっていうのが、どうしても解せなかった。
だから、手荒な方法で連れ去られたと…そんな結論しか、僕には出せないんだ。
訳が分からない。
…