漆黒の王女〈後編〉

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 やがて…お妃さまが身籠った。待ち望んだ漆黒城の後継ぎ。

 母子ともに順調に…とても大きなお腹で、大きな赤ちゃんが生まれるに違いないと言われていたらしいが、生まれてみるととても小さな男の子だったようだ。

 真っ黒い髪。真っ黒い瞳。漆黒の一族の血をしっかり受け継いで生まれてきた王子様。

 あたしはお目にかかる事はなかったが、旦那からよく話を聞いていた。ご両親に目一杯愛でられて育っていると。



 …それから…王子様ご誕生からまもなくして…

 この家に、お妃さまがお忍びでいらっしゃった。

 そうら、驚いたね。当時のあたしもびっくりさ。護衛も誰も付けずに、城からの秘密の抜け道でたったひとりで来なさった。

 お妃さまは、あたしが城に居る時に織った深緑のマントで身を包んでなさった。

 その中から…ふぇ、ふぇ、と声がするんだ。

 あたしが覗き込むと、お妃さまはマントを剥ぎ取って…腕に、赤ちゃんを抱いていた。

 王子様を見せにいらしてくれたのかと思ったが…その子は王子様ではなかった。

 マントと同じ色の、深緑の髪と瞳。赤ちゃんにしてはかなり大きい子だった。

 この子はどうしたのですか、あたしは聞いた。

 お妃さまは…こうおっしゃった。



 ──この子は、城の見えない所に捨てられていた。

 育ててやりたいが、私の息子も生まれて城中の者は全て息子にかかりきり。

 城の喧騒から離れているお前にこの子を託したいのだけれど、引き受けてくれるだろうか──



 この頃…まだ今ほど目は悪くなってなかったが、自分が出産できない身体と知って、途方にくれていた…

 お妃さまのこの提案に、あたしは乗った。

 こんなに可愛い赤ちゃんを捨てるとは、なんて親だ。

 お妃さまはその緑の子をあたしに抱かせて、宜しく頼むと言い残して、また抜け道を通って帰っていきなさった…

 何度も何度も、振り返って。

 大事に育てていこう。あたしはそう思った。





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