漆黒の王女〈後編〉
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「黒い瞳の、黒く潤しい髪…とても綺麗なお方だった。
王様も漆黒の瞳、漆黒の髪でね…まあこちらは闇を塗り潰した様な、少し恐い感じだったんだが…
そのお二人が切り盛りするその城は【漆黒城】と呼ばれていた。城自体は普通で、ちっとも黒くなんかなかったんだけどね」
僕が息を飲んだのなんてお構いなしに、おばあさんは話を続けた。
「あたしはお妃さまのお召し物を織る使用人だった。
だけど、目がどんどん悪くのを感じて…限界を感じて、お城を出てしまったんだ。
本当はもっと遠くへ、海でも越えようと思ったのだけど、お妃さまがそれを引き留めなさった。私の近くに、目の届く所にいておくれと。
あたしも、お慕いするお妃さまから離れたくなかった。
ちょうどその頃、城と外界を唯一繋ぐ門の守人が加齢で引退するという話が出て…後継でやってみないかと言われてね。
城や外界への物流をしっかり管理する事と、漆黒城の存在を決して漏らさぬように、という条件付きで、
あたしは城の敷地のずっとずっと端っこのここに居座る事になった。
城の中で私を支えたいと言ってくれた人がいたから、彼と一緒に出てきて二人で暮らし始めたんだ。
あたしは織物だけなら目が不自由でも身体が覚えていたから、そちらを重きに生活した。
城、特にお妃さまがまだあたしの腕を買ってくれて、何かにつけて織物の依頼をしてくれた。城とのコンタクトは彼に一切任せて…
それがうまく回って、あたし達は幸せに、不安なく暮らしたんだ」
「へ、え。そうなんですか」
僕がぎこちない相槌を打つと、おばあさんははっとなって慌てた。
「あれまあ、つい懐かしくなって一方的に話してしまったよ。
こんな話は退屈だろう、やめようね」
「いや、面白いです。どこかの本の話みたいだ。あの、もっと聞かせて。僕の服が乾くまで」
これ、絶対シーナと関係あるんじゃないか。
【漆黒】という言葉に僕がドキドキしている事なんて、おばあさんは知る由もない。
僕が先を促すのに気を良くしたおばあさん、昔ばなしはまだもう少し続く…
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