漆黒の王女〈後編〉
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その家に辿り着くまで、僕の服はすっかりぐっしょりでちょっとでも掴めば雫がポタポタと垂れた。身の震えも一層酷くなった。
暖をとらせて貰えるだろうか?
白い息を吐きながら、僕はその家の扉を叩いた。
「おや、もう帰ったのかい? さっき出ていったばかりなのに」
優しそうな、おばあさんの声が聞こえた。
「さっきひどい嵐が来たろう、それで戻ってきたのかい」
扉が開いて、あの、と言う前に、僕にばかでかいタオルが降り注いで、
「うん? あれまあんた、頭の位置はこんなに低かったかいな?
………
………
あれまああれまあ。あんた誰だい? 息子かと思ったよ」
タオルの上から髪の毛をガシガシやられて若干目を回しそうになった所で、タオルが剥ぎ取られた。
僕の目の前には、細い目を更に細めている、僕より背の低いしわくちゃのおばあさんが僕を凝視していた。
「あ、あの。ごめんなさい。僕、迷ってしまって…そしたら、ここの明かりを見つけたので」
僕がそこまで話すと、おばあさんはそっと僕の手を引いて、
「ほらお入り。雨に降られて大変だったろう。
寒いかい? こっちに暖炉があるからあったまりなさい。
こんなに濡れて可哀想に。息子の服を貸してあげるから、脱いでここで乾かしなさい」
家の中に通してくれた。優しい人でよかった。
暖炉の前でボウガンを背中から下ろし、下着以外の服を脱ぎながらぐるりと中を見回す。
キッチンとダイニングテーブル、暖炉の他には、足踏み式の大きな織機があって、壁にはそれで織られた服が沢山飾られていた。
「すまないね、そっちのは売りに出す物でね。この息子の服で勘弁しておくれね。
あらま、あんたにはこのシャツだけで事足りそうだの(笑)」
そう渡されたシャツに袖を通すと、半袖の物なのに僕の肘は隠れ、丈も長くて膝小僧のすぐ上まできてた。襟ぐりも広いので肩がすぐにはだける、片手で必死に持ち上げた。
けど、おばあさんがスープをカップに入れて持ってきたので、両手で受け取らざるを得ず、片方の肩が出たまんまスープをふうふうしながら飲んだ。
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