漆黒の王女〈後編〉
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びゅうううう。
追い風がグライダーに当たって割けて通り抜けていく。
機体の揺れがなかなか落ち着かなくて、焦りを感じた。
今までこんな強烈な風の中でグライダーに乗った事はなかったし、もうすぐ雨が降るのか湿った空気を身体が吸って鉛のよう、あ、ボウガンも背負ってるんだった。
とにかくそんな条件の中で安定した飛行を見せろという方が無理、それでも、僕は飛んでいかなくては。
周りの景色はすでに知っているものではなかった。グライダーの練習を重ねた範囲をゆうに越えていた。
厚く黒い雲に覆われて太陽の位置を把握出来ない…常に持ち歩いているコンパスを、胸ポケットから出した。大丈夫、ちゃんと東へ向かえている。
もう大分飛んだ、グリップを握る手が痺れてきた。
だけど、お城らしい建物は一向に見えてこない…気付けば、いつの間にか濃霧の中を飛んでいた。
まだ落陽前の時間のはずなのに、夜みたいに暗い。
方向は?
取り出したコンパスのガラス面に、ポタリと雫が垂れた。
その直後、シャワーでそこだけ当てられたみたいに、ザンッと雨が降り注いだ。
「うわあぁ…っ!!」
雨の重量を翼が思いきり受けて、機体が大きく揺れた。その拍子に僕はグリップから手を離してしまった。
僕自身がおもりとなり、雨の後押しも手伝って僕とグライダーは森の広がる下へ滑降した。
バキバキッと鈍い音と共に、僕のお腹に巻き付けていた命綱のベルトがおへその奥に食い込んで、激痛が走った。
森にグライダーが突っ込んだのだ。翼の骨が折れ曲がって、枝葉に絡み付く形で地面への激突を免れた。
僕は急いでベルトを外し、幹を伝って下に降りた。
地面に足が着いた途端、腰が抜けたようになってヘナヘナと座り込んだ。
肩越しに墜落したグライダーを振り返り、
あぁ、あの日のシーナもこんな感じで、それであの野原に放り込まれていたのかなと…
痛むお腹をさすりながら、僕は推測した。
…