漆黒の王女〈後編〉
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それで、いつもねえさんの手紙を届けてくれる集配人さんに聞いてみた事がある。お城ってどこにあるの、何度も行ってるんでしょ。
だけど、集配人さんの答えはこうだった。
「いやぁ、実はそこは僕の管轄外でね。
お城からの荷物は特殊なルートでまずルニアに届けられるんだよ。お城への配送物も同じ、ルニアで一度集められて、そこから極秘でお城へ…
何でもお城専属の運び屋がいるみたい。一度もお会いしたことないけどね。
なんていうか、ひとつの国みたいなのかな。しかも外のものにオープンじゃない、何もかも秘密なのさ…」
そうなんだ、としかその時の僕は思わなかった。
ねえさんからの手紙さえ来れば、ねえさんが元気だって分かれば良かったんだから。
ただ、そのねえさんからの暗号めいた手紙(ねえさんにはそんな気はさらさら無かったかもしれないが)を受け取った僕は妙に興奮して、
「ねぇ親方、ねえさんが行ったお城は太陽が昇る方にあるんだよ。地図に描いてよ」
苦笑いをする親方をせっついた。断られるかと思ったけど、親方はラフ段階の地図に描いてくれた。
「仮の、だからな。自分の目で確かめるまでは本描き保留だぞ?」
と添えて。
グライダーの元へ辿り着いた。
発射台に備え付けた旗を見る、ちょうど東へなびいていた。
本当に、行くのか?
お城まで、どのくらい離れているか分からない。
仮に辿り着いたとしても、そこにシーナがいるっていう保証はどこにもない。
シーナが連絡をくれるまで、家でおとなしく待つのがいいんじゃないのか。
この期に及んで論理的な僕が対峙する。
バサバサバサッ…
背後からの強い風を受けてグライダーの黒い翼がはためくのを聞きながら、僕はグライダーのグリップを握った。
「離陸準備…
5…
4…
3…
2…
1…!」
グライダーを繋ぎ留めていたゴムを解き放った。
グライダーは宙へ放り出され、激しい気流に飲み込まれた。
行くんだ、お城へ。
シーナとねえさんに深い繋がりがあるのなら、
今何もかも謎だけど、
お城に行きさえすれば答えが見えてくるかもしれないんだ。
機体を立て直そうと必死にもがきながら、僕は思った。
…