漆黒の王女〈後編〉
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『えっ、ちょっ、サザン待っ…』
ブツッ。
またこちらから強く切ってしまった。
おじさん、ごめんなさい。
僕はそっと息を吐いて、通信機から離れた。
ボウガンホルダーを装着して、ボウガンを背中に背負う。
必要あるか? と一瞬頭を掠めたけど、僕の足はとうに外の地面を踏みつけた。
グライダーを停めてある森の奥の野原へ、どんどん強くなっていく風に逆らいながら、僕は進んでいく。
進みながら僕は考えていた、ねえさんが行ったお城の事を。
ねえさんが務めに出たそもそものきっかけは、お城から手紙が届いたから。
その手紙を読んだねえさんは、
(サザンごめんね、このお手紙、家族にも誰にも見せたらダメなんだって。
あのね、あるお城で働いてみないかって。期間は2ヶ月くらいだって。
おねえちゃんの他にもこういうお手紙が出されてるらしいわ。
ねぇ、おねえちゃん行ってみてもいいかな? こんな機会、なかなか無いわよ。
心配しないで、2ヶ月経ったらすぐ帰ってくるから)
そう言って、短期間の仕事として出掛けたねえさん。
ところが、その2ヶ月が経ってもねえさんは帰ってこなくて、代わりにこんな手紙が来た。
(サザン、ごめんね。
2ヶ月という約束だったけれど、お城の方からもう1年、と頼まれてしまったの。
2ヶ月というのは試用期間だったみたい。私と同じように呼ばれた人達は、みんな帰ってしまった。
お城の事、何にも話せなくてごめんね。門外不出と言われて…この手紙も、後でチェックが入るの。
でも、とてもいいお城なの。みんなよくしてくれる。
あと1年、このお城で頑張らせて下さい。親方とおかみさんにも手紙を送りました。サザンの事を宜しくお願いしますと。
わがままなおねえちゃんでごめんね。手紙、頻繁に送るからね)
お城がどこにあって、どんな外観のお城なのか、手紙で書かれる事は一切なく、仕事の内容もあまり詳しくは触れてなかった。
ただ一度だけ、
(この間、とても綺麗な朝陽を見ました。
サザンも見てたかな、つい後ろを振り返っちゃった。
家はずっとずっと遠くなのにね)
と書いてきた事があって、あ、お城ってもしかして東の方にあるのかな、と思った。
…