漆黒の王女〈後編〉
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靴痕はそこにしか無かった。家の周りも見てみたけど、何も無かった。
シーナがいない現実に頭がクラクラする。
シーナが黙っていなくなるはずがない、一体何があったの、悪い想像ばかりが渦巻く。
ふと、開かれた玄関を見やる。
風の通り道となって、渡り廊下に散らばっていた紙たちが舞い上がっていた。
あぁ、だから渡り廊下だけ嵐みたいだったのか。他の部屋が荒らされていないのが納得できた。
ということは、シーナはやっぱり外に出たことになる。少なくとも、この扉を開けたんだ。
その後の展開が読めない…
頭をガシガシと掻いてると、また、さっきは気付かなかった物に気付く。
散らばった不要紙はほとんど二ツ折りでまとめられていたものだったんだけど、
ひとつだけ…渡り廊下のドン尽き、小さくクシャクシャに投げ捨てられたように転がっている紙くずがあった。
それが僕には異様に見えて、吸い込まれるようにそれに手を伸ばす。
広げてみて…僕の瞳孔が思いきり開いた。
しわくちゃになった封筒。
その隅に懐かしい名前、ザザ。
待ちわびたねえさんからの手紙が、何故こんな状態でここにある?
宛名も切手もなく、正当な配送をされなかった事を物語っていた。
僕は震える手で丹念に紙の皺を伸ばして、中の便箋を取り出した。
広げると、また懐かしいねえさんの文字が並んでいた。
でも…急いで書いたのか、いつもの綺麗な字体じゃなかったんだ。
サザンへ。
サザン、おねえちゃんはもしかしたらもう、永久に家に帰れないかもしれません。
もし、もしも、サザンの所に、左耳におねえちゃんと同じ赤いピアスをした女の人が訪ねてきたら、
その人はおねえちゃんの心の支えになってくれた、大事な友だちです。
おねえちゃんの代わりにサザンが、彼女の心の支えになってあげて下さい。
以下余白。
…