漆黒の王女〈後編〉
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吹き上げるような強風になってきた。
湿った土埃が顔に当たるし、お腹も空いてきた、シーナへの騒いだ気持ちも落ち着いたから、家に戻る事にした。
シーナ、どうしてるかな? 言われた通りに安静にして…るわけないかな。
今日の狩りはキジを一羽仕留めただけ。お昼ごはんに、と思ったけど、シーナがある物で作っちゃってるかも。
まぁ、なら晩ごはんに回せばいいやと…考えている間に、家が見えてきた。
…あれ?…
玄関の前で足を止めた。
妙な感覚が僕を襲う。
今朝僕が出た時と、何か様子が違っている気がする。
その違和感が分からないまま…「シーナ? ただいまぁ」と言って玄関の扉を開けた僕はぎょっとした。
渡り廊下が色んな物で散らかっていた。壁に飾られた額が傾き、棚に置かれていた花瓶や壺が横に倒れていた。不必要でまとめていた紙たちがビラを撒いたみたいになっていた。
なんだ、コレ? 強烈な風が家の中に吹き込んできた?
それとも、誰かが侵入? …いやいやと首を振る、でも、シーナの姿が見えない事が後者の可能性を色濃くする。
「シーナ、シーナ? ただいま!」
返事は…ない。
サーッと背中に嫌な汗が流れた。
ひと部屋ひと部屋確認に入る、僕の部屋、両親の部屋、シーナが使っているねえさんの部屋、いない。
今朝までは普段通りだったのに?
ぬくもりの一切無くなった、無機質な雰囲気が気持ち悪いと僕は思った。
ダイニングに入る、テーブルには作りかけのサンドイッチが置いてあった。でもシーナはここにもいない。
サンドイッチのパンがパサパサになりかけていた。この異様な雰囲気になってから、一体どれほどの時間が経っていたというのか。
嫌な音しかしない自分の心臓を確かめていたら、奥のリビングの方から、ガガガと雑音が入りながら声が聞こえた。
『──ナ? シーナ? そこにいるかい? ドーゾ』
アストラおじさんからの通信だった。
…