漆黒の王女〈後編〉
16/72ページ
「ひひひひひ」
また嫌な笑い声が降りてくる。
口から手が離れ、私の顎を強く持ち上げたので、自然と後ろの男を見上げる形となった。
エルさんと同じくらいの上背、でもエルさんより遥かに肉々しい身体の男。
口の回りに青髭が生えていて、ジロジロと私の顔を見ながら口角を歪める。
「あの人の読み通りだった。
あの王女は生きている。この手紙の通りなら、赤いピアスを片方だけしているはず。
黒髪。黒い瞳。片っぽの赤ピアス。こんな三拍子ほど珍しい物はない。
だがまさか、こんなに近くにいるとは思わなかった。
しかも、記憶喪失だって?
ひひひひひ!
あの人が見たら、何て言うかな」
気持ち悪い、気持ち悪い。
これ以上この男のねっとりとした空気を感じたくなくて、私は身体を捻って脱出を試みる。
だけど、とても敵わない…!
男はまた高らかに笑いながら、今度は何か布の様なものを私の口と鼻に宛がった。
ツンと刺激臭を感じた直後、頭がぐわんと揺れた。
「ふ…ぅ…
………
………」
「そうそう…無駄な抵抗は止めなぁ…
城であの人がお待ちかねだよ…
ひひひひひひっ…」
ガクンと首をもたげた私の耳元で、男がそう囁いた。
まぶたが今にも閉じそう、霞む視線の先に、男が私の腰に腕を巻きながら指先で摘まんでいた、手紙。
表の宛名は何も書かれていなかったけど、裏の隅っこに、
(──ザザ)
サザンのお姉さんの名を見つけた。
サザン。サザンに。
お姉さんの手紙の存在を、教えないと…
遠のく意識の中、それだけを必死に何度も唱えた。
《Continued to another point of view…》
※よければこちらもどうぞ
→【漆黒の王女】中間雑談・9
…