漆黒の王女〈後編〉

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「ひひひひひ」

 また嫌な笑い声が降りてくる。

 口から手が離れ、私の顎を強く持ち上げたので、自然と後ろの男を見上げる形となった。

 エルさんと同じくらいの上背、でもエルさんより遥かに肉々しい身体の男。

 口の回りに青髭が生えていて、ジロジロと私の顔を見ながら口角を歪める。

「あの人の読み通りだった。
 あの王女は生きている。この手紙の通りなら、赤いピアスを片方だけしているはず。
 黒髪。黒い瞳。片っぽの赤ピアス。こんな三拍子ほど珍しい物はない。
 だがまさか、こんなに近くにいるとは思わなかった。
 しかも、記憶喪失だって?
 ひひひひひ!
 あの人が見たら、何て言うかな」

 気持ち悪い、気持ち悪い。

 これ以上この男のねっとりとした空気を感じたくなくて、私は身体を捻って脱出を試みる。

 だけど、とても敵わない…!

 男はまた高らかに笑いながら、今度は何か布の様なものを私の口と鼻に宛がった。

 ツンと刺激臭を感じた直後、頭がぐわんと揺れた。

「ふ…ぅ…
 ………
 ………」

「そうそう…無駄な抵抗は止めなぁ…
 城であの人がお待ちかねだよ…
 ひひひひひひっ…」

 ガクンと首をもたげた私の耳元で、男がそう囁いた。

 まぶたが今にも閉じそう、霞む視線の先に、男が私の腰に腕を巻きながら指先で摘まんでいた、手紙。

 表の宛名は何も書かれていなかったけど、裏の隅っこに、

(──ザザ)

 サザンのお姉さんの名を見つけた。



 サザン。サザンに。
 お姉さんの手紙の存在を、教えないと…



 遠のく意識の中、それだけを必死に何度も唱えた。





《Continued to another point of view…》






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