漆黒の王女〈後編〉

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「もしもし、おじさま? ドーゾ」

『えっ、シーナ? シーナ!』

 私が出ると、おじさまは飛び上がったみたいな声を出した。

『心配したよ、もう大丈夫なのかい?』

「ふふ、はい。お医者さん呼んで下さったの、おじさまだって聞いてます。本当にありがとうございました」

『いやいや。それはサザンの判断を誉めてあげて。サザンが連絡をよこさなかったら、僕は何にも知らなかったんだからね』

「はい…そうですね」

『声を聞けてよかったけど…きっとまだまだ体が普段の生活に追いついてないだろう。無理しないでちゃんと休むんだよ。
 ところでサザンは? もしかして家にいない?』

「はい。久しぶりに雨が止んだから、猟に出ちゃいました。戻るまではまだかかるんじゃないかな…
 おじさま、何か急ぎのお話?」

 そこまで話すと、急に間が空いた。不思議に思って耳を澄ましていると、

『いや、んー、急ぎっちゃ急ぎだけどね。
 出来れば君達ふたりが揃ってる時に伝えたかったが…シーナが話を聞けるならいいか』

 少しソワソワしているようなおじさまの声、なんだろう。思わず私も通信機の前で姿勢を正して、おじさまの次の言葉を待つ。

『あのね、昨夜の事なんだけど。
 シーナの事を知ってるっぽい人が来たらしい』

「えっ? …それ、本当ですか」

『うん。対応した局のスタッフが言うには…
 大柄の男が貼り紙をずーっと見てたんだって。
 そのお嬢さん知ってらっしゃるんですかって、スタッフが声を掛けたらね、行方が分からなくなっている知り合いの娘によく似ていると。
 でも髪はこんなに短くなかったし、どうだろうと。
 じゃあ今その子が身を寄せているお宅を教えますって、そのスタッフ言っちゃったんだよね。
 それでその大男は行っちゃったんだけど…」

 本当に? その人が、私の素性を知ってるの?

 額の見えない傷がまた、奥の奥でズキズキと疼きだした。





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