漆黒の王女〈後編〉

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 あんなに心臓がバクバク言ってたのに、僕はいつの間にか眠りに落ちたらしかった。

 目が覚めると朝、だけど陽は見えなくて、空はどんよりと厚い雲で覆われていた。

「あっサザンー、おはようー。昨日は迷惑掛けてごめんね…」

 ダイニングに入ると、台所で背を向けていたシーナがパッと振り返って、申し訳なさそうに言った。

 僕は咄嗟に目を反らした。

 そんな事ないよ、もう頭痛は平気なの、さらっと言えばいいのに言葉が出ない。

 代わりに頬がどんどん熱くなる気がして、それをごまかす為に、コップに一杯水を注いで飲んだ。

 あ、そういえば夕べ、シーナに水分補給してやれてないや…

 僕は別のコップに水を注いで、「ん」とシーナに差し出した。

 シーナはニコッと笑って「ありがとう」と受け取る。

「もう平気だよ、痛みも無くなって…ちょっと体がフラフラするけど、大丈夫」

「うん。そんならよかったけど。お医者さんの薬が効いたんだね」

「…ふふ…」

 シーナが水を飲み干して、急に笑い出した。

「ん? 何?」

「ちょっとね…サザンは大変だったかもしれないんだけど…私寝てる間にね…いい夢を見た気がする」

「!」

「内容は全然覚えてないんだけどね…なんかね…よかったな…」

「へ、ぇ。そう、なんだ」

 野菜スープをグツグツ煮てお鍋を掻き回しながら、僕は夕べの記憶を必死に頭から追い出した。

 まずい。このまま家にいると、心臓に悪過ぎる。

 病み上がりのシーナを置いていくのは気が引けるけど、風が強いだけで雨は降ってないから、僕は久しぶりの猟に出る事にした。

「本当に行くの? また雨が降りそうな雲行きだよ」

「平気。ちょっと出るだけだから。ひどくならない内に帰るよ。
 シーナは本調子じゃないんだから、なんもしないでゆっくりしてなよ?」

「うんわかったよ。いってらっしゃい」

 朝ごはんを平らげて、手入れを怠らなかったボウガンを担いで、僕は森へ出た。

 少しの間でいい、ひとりになって気持ちを落ち着けたかった。

 ひとりに…





 ──まさか、あんな形でそうなろうなんて、この時の僕は微塵も思わなかったんだ。





《Continued to another point of view…》






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