漆黒の王女〈後編〉

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 僕がうまいこと作業をやりくりするんで、今度はシーナが退屈そうにする。

 だよね、言ってしまえばシーナは、掃除以外頼まれ事が無いんだ。

「シーナ、今する事ない? なら、こっち一緒にやる?」

 人手は全く要らなかったけど、ちょっとシーナがかわいそうになってそう声を掛けると、シーナは嬉しそうに「やるやる」と僕の真向かいに腰を下ろした。

 「どうするの? どうやるの?」と前のめりに教えを乞うのが面白くて、子供みたいだなぁと笑いを噛みしめながら、僕はシーナに作業の真似をさせた。

 シーナはすぐに覚えて、僕と同じペースでチラシを決まった順に折り、封をして、シールを裏表に貼り付ける。

 封書の山があっという間に出来て、次の分はおろか集配人が来る日にも十分に間に合うくらい、シーナの作業は早かった。

 早いのは助かるんだけど…これだとまた退屈な日の方が多くなってしまう。

 そこで僕は考えた。一回分を何日かに分けよう。それから、シーナにはもう少しゆっくりのペースでいいからと言おう。

 そうした後、少しずつ楽しくなってきた。

 今まで作業の間はふたりとも無言だったんだけど、雑談をしながら手を動かすようになった。

 だからといって、作業が遅れるということもなかった。はじめからこうすればよかったねと僕達は笑い合った。

「そういえばシーナさぁ、エルさんから手紙来てる?」

「うん。彼が発ってからもう二通貰ってる」

 相変わらず筆まめなふたりだな。気が合うし…このまま続いていくんだろう。

「サザンは? 来た? …お姉さんから」

「…ううん」

「そう…」

「まぁ、大丈夫だよ。その内来るから」

 心配そうに見つめるシーナに、僕はそう言った。

 全く心配してないわけじゃないけど、ねえさんはお城で頑張ってるんだって思うことにしてる。

 何かあれば…知らせがあるはずだから。



 その翌日、シーナが親方の家の掃除に行っている間に集配人が来たので、出来上がった封書の箱を渡した。

「はい、アストライアンさんからお話は聞いてますよ。確かにお預かりしました」

「あの、今日はうちには手紙、来てないですか?」

「んーと、はい、シーナさん宛てに一通。これだけだね」

 エルさんからの手紙を差し出された。僕はそれを受け取り、同時に一通の手紙を集配人に渡した。

「あ、あとこれも、お願いします」

「はい、承りました」

 やりとりを終えて、集配人は去っていった。

 僕が出したのは、ねえさんへの、三度目の手紙。

 ねえさんからの手紙が途絶えて随分と経った…

 必ず帰るからと言っていたねえさんの誕生日が、すぐそこまで迫っていた。





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