漆黒の王女〈後編〉

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『ふぅん、じゃあしょうがないかぁ。
 また私がそっちに行ったげるから、あんまし寂しがるんじゃないわよ』

「(笑) はぁい」

 そうしてふたりは通信を切った。

 ふたりの会話が終わって、また雨の音だけが家中に響く。

「シーナ大丈夫?」

「えっなにが」

 僕の言葉にシーナが驚いて振り向いた。

「頭。今日は痛みは無いの?」

「うん平気。っていうか、サザン気にし過ぎ。痛みったっていつも全然たいしたことないんだよ」

 ウソばっかり。

 確かにエルさんがいた時の以来は騒ぎになってないけど、あれ以来、シーナは不意に頭をよく押さえる。表情もわずかにだけど、苦しそうなんだ。

 さっきのアルテとのやりとりの最中にすら、そのふしが二度三度見受けられたのに、

「ほら…雨季になったからじゃない? サザンだって雨降るとちょっと調子悪いでしょ。それと一緒だよ、きっと」

 シーナはちっとも取り合わない。

「じゃあいってきまーす」

「えっどこへ」

 唐突にそんな事を言うシーナに、今度は僕がビックリした。

「どこって、親方の家へ掃除しに。毎日しといてくれっておかみさんに頼まれてるって、言わなかったっけ?」

「聞いてないし。そんなら僕も行く」

「あ、私だけで大丈夫。おかみさんにも、私以外には触らせないでって言われてる。すぐ帰ってくるからねぇ」

 そう言ってシーナは雨具を身に付けて出ていってしまった。

 図鑑を見るのも飽きてしまい、すっかり手持ち無沙汰になった僕。

 くそぅ、僕にも何か仕事があればなぁ。これだから雨はきらい。

 ぶつぶつ言いながら、もうすぐお昼の時間なので僕は台所に向かった。シーナが帰ったらすぐに食べられるようにしよう。





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