漆黒の王女〈後編〉

2/72ページ

前へ 次へ


 エルさんが旅立ちその翌日、ルニアの港の情報局の掲示板にシーナの似顔絵が貼り出された。

 ルニアに降り立った旅人は必ずそこに寄る。これでシーナを知る人が現れるといいんだけど…

『アンタ、なんであんな真顔で描かれてるの』

 数日後にアルテから通信が来て、通信機越しだったけど、アルテがしかめっ面をしているのが手に取るように分かった。

「ふふ…だって、人探し用でしょう。笑顔とかだったら変だよ」

『それにしたってよ、あんな真顔だと…男みたいよ、男』

「ぶふっ」

 アルテの直球すぎる反応にシーナがウケてる。

『本当なんだからね、エルさんに抗議してもいいレベルよ? アンタせっかくビジョなんだからさぁ。
 ねぇ、一回見にこっちに来なさいよ』

「ううん、アルテごめんね…しばらくは行けそうにないの。
 親方とおかみさんの留守を…」

 シーナが話すのを、僕は窓際で図鑑を読みながら聞いていた。

 大粒の雨が窓のガラスを叩いては筋を描いて、桟の下へ消えていく──僕達の森では雨季を迎えていた。

 雨季は2ヶ月続く。その期間、僕達猟師は仕事が出来ない。

 どうするのかというと、外へ出稼ぎに出る。

 親方は地図学者の肩書きを持っているから、研究の続きをしたり講師をしたりする。

 おかみさんは親方についていって、同じ町で自分で短期の仕事を見つけて金を稼ぐ。

 てっきり僕とシーナも連れていくもんだと思っていたら、

「おまえたちは留守を頼むぞ。
 時々天気が回復する事もあるだろう、その時はサザン、お前の腕が許す限り狩りに出るといい。
 お前はずいぶんと上達した。ひとりで森に入っても大丈夫だろう。
 それに、姉ちゃんが帰ってくる時におまえたちが家にいなきゃ困るだろう?」

 時々手紙のやりとりをすると約束を交わし、置かせて貰っていた通信機を僕達へ戻してから、親方とおかみさんは出発した。





2/72ページ
スキ