漆黒の王女〈後編〉
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エルさんが旅立ちその翌日、ルニアの港の情報局の掲示板にシーナの似顔絵が貼り出された。
ルニアに降り立った旅人は必ずそこに寄る。これでシーナを知る人が現れるといいんだけど…
『アンタ、なんであんな真顔で描かれてるの』
数日後にアルテから通信が来て、通信機越しだったけど、アルテがしかめっ面をしているのが手に取るように分かった。
「ふふ…だって、人探し用でしょう。笑顔とかだったら変だよ」
『それにしたってよ、あんな真顔だと…男みたいよ、男』
「ぶふっ」
アルテの直球すぎる反応にシーナがウケてる。
『本当なんだからね、エルさんに抗議してもいいレベルよ? アンタせっかくビジョなんだからさぁ。
ねぇ、一回見にこっちに来なさいよ』
「ううん、アルテごめんね…しばらくは行けそうにないの。
親方とおかみさんの留守を…」
シーナが話すのを、僕は窓際で図鑑を読みながら聞いていた。
大粒の雨が窓のガラスを叩いては筋を描いて、桟の下へ消えていく──僕達の森では雨季を迎えていた。
雨季は2ヶ月続く。その期間、僕達猟師は仕事が出来ない。
どうするのかというと、外へ出稼ぎに出る。
親方は地図学者の肩書きを持っているから、研究の続きをしたり講師をしたりする。
おかみさんは親方についていって、同じ町で自分で短期の仕事を見つけて金を稼ぐ。
てっきり僕とシーナも連れていくもんだと思っていたら、
「おまえたちは留守を頼むぞ。
時々天気が回復する事もあるだろう、その時はサザン、お前の腕が許す限り狩りに出るといい。
お前はずいぶんと上達した。ひとりで森に入っても大丈夫だろう。
それに、姉ちゃんが帰ってくる時におまえたちが家にいなきゃ困るだろう?」
時々手紙のやりとりをすると約束を交わし、置かせて貰っていた通信機を僕達へ戻してから、親方とおかみさんは出発した。
…