漆黒の王女〈前編〉

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 空が夕焼け色に染まる前に、私達は野原を後にした。

 親方の家に戻ると、エルさん達はすぐに帰り支度を始めた。

「慌ただしくしてごめんね。
 明日の出発の準備を途中で放っぽって来ちゃったし…あと、尋ね人に出す絵も行く前に完成させたいから」

 私はエルさんの案に乗って、私を知っている人を探してみようと…そう決めた。

「はい。よろしくお願いします。あの、エルさん?」

「ウン?」

 エルさんが振り返る。

 道中気をつけて。お仕事がんばって。いつこっちに帰って来れるの。また逢いに来る? また、お手紙書いてもいい…?

 沢山のことを思い馳せたけれど、言葉が出なかった…

 エルさんはそんな私をじっと見て、やがて手を差し伸べた。私はその手を取る。

 するとエルさんはニコッと笑って、

「いってくるね。
 仕事がんばってくる。
 また…いつになるか分からないけど、僕と逢ってね。
 向こうでも手紙を送るから…君も書いて、ね」

 言葉にしなかった問いの全てに答えてくれた…

「…ハイ…」

 私、今、どんな顔をしているんだろう。

「シーナ、これは君が持っていて」

 エルさんが私の手に握らせたのは、エルさんが今日使ったスケッチブックと…向こうへお守りに持っていくと言っていたはずの、今日描いてくれた私の絵。

「えっ? エルさん、どうして?」

「ふふ…今の…描きたくなったから…そっちをお守りにする」

「エルさんまだー??」とルニアに帰るアルテが馬車から呼ぶ。

 エルさんの言葉を理解できないままの私に「それじゃあ」と言って、エルさん一行は馬車でこの村を去っていった。





「シーナ、ずっとその絵見てる」

 サザンの家に帰ってから、エルさんの絵をずっとぼんやり見ていた私。

 そう言うサザンも、エルさんのスケッチブックの絵をずっと見てる(笑)

「エルさん、いい人だったね」

「うん」

「でもさあ、やっぱり僕のことは小っさく描くんだなぁ」

「うん(笑)」

「…大丈夫だよ。また、逢えるよ…」

「…うん…」





【僕は好き】

 私の黒をそう言ってくれたエルさんの声の響きが、とても心地よかった。

 エルさんが無事お仕事を終えてまた私に逢いに来てくれた時に…

 その心地よさの正体をじっくり考えようと…

 エルさんのぬくもりがまだあるような気がする、その絵を見ながら…そう思った。





《Continued to another point of view…》






 
漆黒の王女〈後編〉に続く





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【漆黒の王女】中間雑談・7





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