漆黒の王女〈前編〉
66/66ページ
空が夕焼け色に染まる前に、私達は野原を後にした。
親方の家に戻ると、エルさん達はすぐに帰り支度を始めた。
「慌ただしくしてごめんね。
明日の出発の準備を途中で放っぽって来ちゃったし…あと、尋ね人に出す絵も行く前に完成させたいから」
私はエルさんの案に乗って、私を知っている人を探してみようと…そう決めた。
「はい。よろしくお願いします。あの、エルさん?」
「ウン?」
エルさんが振り返る。
道中気をつけて。お仕事がんばって。いつこっちに帰って来れるの。また逢いに来る? また、お手紙書いてもいい…?
沢山のことを思い馳せたけれど、言葉が出なかった…
エルさんはそんな私をじっと見て、やがて手を差し伸べた。私はその手を取る。
するとエルさんはニコッと笑って、
「いってくるね。
仕事がんばってくる。
また…いつになるか分からないけど、僕と逢ってね。
向こうでも手紙を送るから…君も書いて、ね」
言葉にしなかった問いの全てに答えてくれた…
「…ハイ…」
私、今、どんな顔をしているんだろう。
「シーナ、これは君が持っていて」
エルさんが私の手に握らせたのは、エルさんが今日使ったスケッチブックと…向こうへお守りに持っていくと言っていたはずの、今日描いてくれた私の絵。
「えっ? エルさん、どうして?」
「ふふ…今の…描きたくなったから…そっちをお守りにする」
「エルさんまだー??」とルニアに帰るアルテが馬車から呼ぶ。
エルさんの言葉を理解できないままの私に「それじゃあ」と言って、エルさん一行は馬車でこの村を去っていった。
「シーナ、ずっとその絵見てる」
サザンの家に帰ってから、エルさんの絵をずっとぼんやり見ていた私。
そう言うサザンも、エルさんのスケッチブックの絵をずっと見てる(笑)
「エルさん、いい人だったね」
「うん」
「でもさあ、やっぱり僕のことは小っさく描くんだなぁ」
「うん(笑)」
「…大丈夫だよ。また、逢えるよ…」
「…うん…」
【僕は好き】
私の黒をそう言ってくれたエルさんの声の響きが、とても心地よかった。
エルさんが無事お仕事を終えてまた私に逢いに来てくれた時に…
その心地よさの正体をじっくり考えようと…
エルさんのぬくもりがまだあるような気がする、その絵を見ながら…そう思った。
《Continued to another point of view…》
漆黒の王女〈後編〉に続く
※よければこちらもどうぞ
→【漆黒の王女】中間雑談・7
…
66/66ページ