漆黒の王女〈前編〉

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 しばらくエルさんと和やかに話をした。

 エルさんがこれまでの手紙の中で描いてきた絵の事や、こないだのルニアのお祭りであそこに行ったとかこんなのを買ったとかを、お互いに言い合ったり。

 そうしている内に、サザンのグライダーがまたこちらの方へ飛んでくるのが見えた。そろそろ降りてくるのかな。

「本当によく飛ぶねぇ、あのグライダー」

「ふふ、ハイ」

 いつの間にかエルさんは筆とパレットを持って、キャンパスに彩色していた。

 「わぁお」とエルさんの後ろにいるアルテが感嘆の声を上げる。

「元々は君のだったって、手紙で書いてたね」

「はい…私は全く覚えてないけど…名前がはっきり書かれてるから」

「うん、そうか」

 そこでエルさんは一旦お喋りを止める。

 少し目を臥せった様にして、手だけがせわしく動く。

 キャンパスを擦る筆の音だけがしばらく続いた。

「君は…一体どこから来たんだろうね…」

 ふとして、エルさんは遠くに目をやってつぶやいた。

「はい…」

「あのグライダーに乗って、ひとりで…旅の途中だったのかな…」

「………」

 どうなんだろうか…家族を置いてまで旅を? それとも家族はとうにいないのかもしれない…

 エルさんがあれこれ推測しながら話すのを聞いて、今まで深く考えてこなかったけれど、ああなのかな、こうなのかなと、あらゆる私を想像出来た。

 ただ、その度に沸き上がるモヤモヤは何なんだろう。

 まるで、どれも違うと、誰かが叫んでいるみたい…

「ねえ、もしよかったらだけど…君の似顔絵をルニアに…尋ね人の掲示板に貼って貰うのはどう?
 ルニアの港には世界各地の人達が出入りする。もしかしたらシーナを知っている人が見てくれるかも」

 エルさんがそう提案した時、グライダーが私達のすぐ頭上を飛行した。

 びゅうぅっ…

 グライダーが連れてきた風に私達は煽られる。



 ズキ…




「…ッ」




 額の生え際の奥の奥で…痛みが鈍く響いた。





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