漆黒の王女〈前編〉
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実はアストラおじさまが町へ帰る時に、
「コレ、こっちにいる間に密かに造っていたんだ。
これひとつで送受信出来るから、何かあったらいつでも連絡しておいで。
帰ったらうち用にも造らなきゃなぁ(笑)」
私達の為に通信機を置いていってくれた。
日中は私もサザンも家にいない、狩りに出ているか親方の家で加工作業をしている。
だから通信機は親方の家に置かせて貰っていた。
「シーナぁ。ベスタから通信だよ」
おかみさんに呼ばれて、作業の手を止めて通信機の元へ行く。
「おばさま? シーナです。どうしたの」
『あっシーナちゃん? ごめんね忙しい時に。
あのね、今日、エルさんとこの執事さんがいらしてね。
明日エルさんがシーナちゃんの所に行くって…本当なの?』
「えっ」
明日。ずいぶんと急な。けど、待ってますと書いたのは私。
「明日…でも構わないけれど」
『そうなの? シーナちゃん、嫌なら断っていいのよ』
「そんなことないです。お手紙のやりとりで、エルさんがとても素敵な人って分かってるから。
実際に逢ってみたくなったの、お互いに」
『あら。まあまあまあ』
というおばさまの声と、
「おやおやおや。これは…」
というおかみさんの声が重なった。
「ベスタ。明日の事はアタシが取り持とうか?
どうやら、このご縁を大事にしないとならないようだしねぇ」
『そうですわね。おかみさんにお世話をお願いできるなら安心です。
シーナちゃんにとっていい出逢いとなったのなら、私も嬉しいわぁ』
なにやら二人で盛り上がって、私は蚊帳の外になってしまった。
そこへサザンと親方が狩りから戻ってきて、通信中の私達を見て目を丸くした。
「なんだなんだ、妙に賑やかじゃねぇか」
親方が苦笑いをしながら言う。
「あらアンタ、おかえりなさい。
ちょっと聞いておくれよ。明日、シーナの文通相手がシーナに逢いに来るんだよ。
あぁ大変だ、色々準備しなけりゃね」
「はあ? 何の準備?」という親方の質問をスルーして、おかみさんはパタパタと部屋を出ていってしまった。
通信機の向こうでおばさまがうふふと笑って、
『シーナちゃん? じゃあ明日、アルテにエルさんをそっちまで案内させるからね。がんばってね』
そう言ってブツッと通信を切った。
…