漆黒の王女〈前編〉

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 シーナを見初めた相手の男の人はエルさんといった。

 ルニアの町から少し離れた所の大きなお屋敷に住んでいる、裕福な家系の人らしい。

 執事のじいやさんと開港祭に出掛けた時に、接客をしているシーナを見つけたという事だった。

【あなたの事を、少しずつでいいから教えて下さいませんか】

 手紙にはそう書かれていた。

「あのー…シーナ? 僕も見ちゃっていいもんなんですかねぇ。
 こういうのって、秘密にしとくもんなんじゃないの?」

 そう、シーナは隠さず手紙を見せてくる。

 それどころか、「どう書いたらいいかなぁ」なんて相談さえするんだ。

「そんなの自分で考えてよ…手紙やりたいって言ったのシーナでしょうが」

「そうだけど。サザンはお姉さんに手紙出してるから、参考に聞きたいのに。んー、どうしようかなぁ」

 とかなんとか言いながらも、ねえさんの机を借りて楽しそうに便箋に書き記していってる。

 封をする前にもまた見せてきて、しかたなく読んだら、自分が記憶喪失であること、身元が全く分からないことが書かれてあった。

 一瞬いいのか? と思ったが、

「いいんじゃないの」

 これで相手が引いてくれたらいいのに。



 でもエルさんとシーナの文通は続いた。

 お互いに読んだらすぐに書いて出してるみたいで、村に三日に一度やってくる集配人の手には必ず、エルさんからの手紙があった。

 文通が始まって半月が経つ頃、【シーナと会って話をしてみたい】というエルさんからの手紙が来て…

 【私もエルさんと話してみたい】とシーナが返事を出した。



 こうしてふたりは初対面する約束を交わした。

 この事が…僕の周りをほんの少し掻き乱す事となる。





《Continued to another point of view…》






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【漆黒の王女】中間雑談・6





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