漆黒の王女〈前編〉
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【通信機っていう便利な物があるのよっ】
アルテのかしましい声とどや顔を思い出す(笑)
「うん、これでおじさまと話したって言ってた」
シーナも同じく思ったようで、含み笑いながら答えた。
「家にあるのは受信機でね、こっちから信号を送らないと通じないんだ。
あー、あー、あー。こちらアストラ。誰かいるかい? ドーゾ」
すると、受信機の向こう側でガチャガチャッと音がして、『ママ! 来たよ!』と慣れ親しんだ声が飛んだ。
『あー、あー、あー。こちらアルテ。パパ元気? ドーゾ』
おじさんと同じ調子で答えるアルテが面白い、シーナと二人で肩を震わす。
「あぁ元気だよ。サザンとシーナも今ここにいるんだ。
パパ明日辺り家に帰れそ…」
『シーナそこにいるの!?』
アルテのキンキン声に僕達はびっくり。おじさんの言う事を遮ってまで、何をそんなに興奮してるんだろう。
『シーナ!
アンタ…
ケッコンするの!?』
「「「は、あ???」」」
その場にいた全員がポッカーンとなった。全く状況が飲み込めない僕達をよそに、『ねえどーなのよー??』とアルテが捲し立てる。
『こらアルテ! 先走っちゃダメ…』
ベスタおばさんの声が遠くから聞こえて、またガチャガチャ音が鳴って、どうやらアルテは通信機から遠ざけられて、おばさんと交代したっぽかった。
これでまともな会話が出来ると安心したのも束の間、おばさんもまたおかしな話をし出したのだ。
『あ、あなた? お疲れさま。連絡待ってたのよ。
シーナちゃん、そこにいるのよね?
あのね…実はね…
お祭りの日にシーナちゃんの事見かけた人がいてね。
美しいって…たいそう気に入っちゃったみたいなの。
シーナちゃんがうちに入る所見て…うちに連絡が来たの。おじょうさんとお話しさせて下さいませんかって。
違います、あの子は知り合いの子でって言ったんだけど…そんな本人に知らせず勝手に会わすなんて出来ないでしょう?
でも全然引かなくって…せめて手紙を書かせてくれませんかって。
そちらの住所まだ教えてないけど…どうしよう? シーナちゃん嫌よね?』
…