漆黒の王女〈前編〉

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「ふむ、グライダーに問題は無さそうだね。飛んでみてどうだった、サザン?」

 地面に降りると、足の裏がフワフワと柔らかいものを踏んでいる感覚、まだ夢心地のよう。

「おじさん、すごいね、人間って、飛べるんだね??」

 興奮して息づかいが少しおかしい僕を、おじさんは自分の顎を撫でながら笑った。

「ハッハッハッ。そうさ。探究心の塊が成せた技だよ。この技術がこっちにももっと浸透したらなぁ。
 さて次は…いってみるかい、シーナ?」

「えっ、私…??」

 名指しされて目を丸くしたシーナ。

「おじさま…さっき危険って言ってなかったっけ?(苦笑)」

「ハッハッ。本当にそうかどうかはやってみないと」

 おじさんはまた別のヘルメットとプロテクターを荷物から出して、シーナに渡した。

 シーナはそれらを身に着けて、グリップを握る。

 ──あれはシーナの物だ。

 シーナとグライダーが一体になった瞬間がなんとも自然で、そう思わざるをえなかった。

「ふぅむ、やっぱり君のなんだな…実際に持ってもらうと違和感がない」

 おじさんも同じように思ったみたい、そう呟いた。

「おじさま…本当にやるの? ちょっとこわい…」

 珍しくシーナが物怖じしてる。

「大丈夫さ、グリップさえしっかり持ってくれたらね。高さもさっきのサザンより低めにしよう。
 さぁ、また引っ張るのを手伝ってくれ!」

 おじさんの合図で僕達はロープを引っ張り出した。

 シーナがバーにお腹を乗っけるように前傾姿勢で助走をする。

 グライダーの翼がはためかない、なのに、さっきの僕より遥かに短い時間でシーナの足が地面から離れた。

「うまいぞシーナ、上へ上げるよ」

「うわっ…」

 シーナの短い叫びは空へ吸い込まれた。

 グライダーが滑らかに上昇する、なんて美しい飛び方なんだろう。

 低めにすると言ったのに、それに見惚れてしまってロープの調節を怠った僕達。

「おじさま! サザン! 高過ぎだから!」

 シーナの半べそかいた喝を聞いて、慌ててグライダーを引き戻した。





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