漆黒の王女〈前編〉
48/66ページ
「ふむ、グライダーに問題は無さそうだね。飛んでみてどうだった、サザン?」
地面に降りると、足の裏がフワフワと柔らかいものを踏んでいる感覚、まだ夢心地のよう。
「おじさん、すごいね、人間って、飛べるんだね??」
興奮して息づかいが少しおかしい僕を、おじさんは自分の顎を撫でながら笑った。
「ハッハッハッ。そうさ。探究心の塊が成せた技だよ。この技術がこっちにももっと浸透したらなぁ。
さて次は…いってみるかい、シーナ?」
「えっ、私…??」
名指しされて目を丸くしたシーナ。
「おじさま…さっき危険って言ってなかったっけ?(苦笑)」
「ハッハッ。本当にそうかどうかはやってみないと」
おじさんはまた別のヘルメットとプロテクターを荷物から出して、シーナに渡した。
シーナはそれらを身に着けて、グリップを握る。
──あれはシーナの物だ。
シーナとグライダーが一体になった瞬間がなんとも自然で、そう思わざるをえなかった。
「ふぅむ、やっぱり君のなんだな…実際に持ってもらうと違和感がない」
おじさんも同じように思ったみたい、そう呟いた。
「おじさま…本当にやるの? ちょっとこわい…」
珍しくシーナが物怖じしてる。
「大丈夫さ、グリップさえしっかり持ってくれたらね。高さもさっきのサザンより低めにしよう。
さぁ、また引っ張るのを手伝ってくれ!」
おじさんの合図で僕達はロープを引っ張り出した。
シーナがバーにお腹を乗っけるように前傾姿勢で助走をする。
グライダーの翼がはためかない、なのに、さっきの僕より遥かに短い時間でシーナの足が地面から離れた。
「うまいぞシーナ、上へ上げるよ」
「うわっ…」
シーナの短い叫びは空へ吸い込まれた。
グライダーが滑らかに上昇する、なんて美しい飛び方なんだろう。
低めにすると言ったのに、それに見惚れてしまってロープの調節を怠った僕達。
「おじさま! サザン! 高過ぎだから!」
シーナの半べそかいた喝を聞いて、慌ててグライダーを引き戻した。
…