漆黒の王女〈前編〉

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「そう…れっ!」

 おじさんやシーナ達が力を込めてロープを引っ張りながら駆け出した。

 バサバサとグライダーの翼がはためく。

 ユラユラと覚束ない機体のバランスを整えながら、僕も駆け出した。

「!」

 足が地面を離れた瞬間、僕は咄嗟に膝を揃えて足先を後ろへピンと伸ばした。

 それが功を奏したみたい、僕の身体もグライダーの翼の一部となった様に風を受けて、ブワッと上へ突き上げられた。

「わ、あ、あ、あ!!」

 僕の目線は、グライダーが引っ掛かっていた所まで上がった。

「よし、気流に乗った! 少しずつロープを延ばしていくよ?」

 おじさんの合図でスルスルとロープを上へ放していくシーナ達。

 ロープはピンと張りつめながら、風を受けて向こうへ飛んでいこうとするグライダーを必死に引き留める。

「サザンー、ここまでが限界だ。しばらくそこで景色を堪能してごらん」

 おじさんが真上を向いて叫んだ。

「…ふわぁ…」

 間抜けな声しか出なかった。鳥って、いつもこんな目線なんだ。

 グライダーは木々の高さを越えられなかったけれど、僕には十分刺激的。

 僕を見上げるおじさんやシーナは小人みたい、野原の草が風になびいて揺れる様子がこの高さだとことさら美しい。

 もっと上へ行けたら、僕達の村やルニアの町、海、もしかしたら遥か向こうの陸地も見える?

 ねえさんが務めに出たお城へだって飛んでいけるかもしれない…

 そこまで考えて、僕はねえさんの手紙がまだ来ないのを思い出した。

 僕からの手紙あるなしに拘わらず、月に一度必ず手紙をくれるねえさん。

 前回からひと月を優に越えて、シーナが家に来てすぐに手紙を送っているのに、その返事がない…

 ねえさんの事だから心配するような事はないはず、多分休みがハッキリと決まるまでは、とか思ってるんだろう…

「おぅい、サザン、僕達が限界だ、ぼちぼち降ろすよ」

 おじさんの声にハッとなった時にはもう、僕はグライダーごとゆっくり地面へ引っ張られていた。





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