漆黒の王女〈前編〉
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「さあおいで、読むより実際にやった方が早く覚えるだろう」
おじさんはおかみさんお手製のお弁当(僕達が頼まれて持ってきた)をたいらげると、すくっと立ち上がってグライダーの元へ僕達を促した。
「博士! まだ発射台が出来上がってませんし、機体だって最終点検が終わってないですよ!?」
助手さんの一人が慌てて止めに入ったけど、まあまあとおじさんは制した。
「点検ついでだ、飛べるか確認してみようじゃないか。サザン、パイロットをお願いできるかい?」
おじさんにそう言われて僕の顔はよっぽど輝いていたに違いない、シーナがくすりと笑って「サザンってば」と零した。
おじさんが僕に、ゴーグル付きのなめし革の帽子と、肘や膝を守るプロテクターを手渡してくれた。
それらを身に着け、グライダーのグリップを持った。おじさんが前に言った通り、驚くほど軽かった。
「おじさん、どうやって飛ぶの」
僕の腰に命綱をくくりつけるおじさんに問う。
本を見る限りでは、どこか高い所から走って風に乗らないと駄目だと思うんだけど、ここは森の中の拓けた平地。どうやったら森の木々を越えるんだろう。
「サザンあわてないで。まだ実験段階だからね。まず森を越える事は隅に置こう。
そのグライダーで一体何秒安定した形で足を地面から浮かせられるか、それを知る事から始めようね」
おじさんに諭されてはぁいと返事をした僕を見て、ニッコリと笑いながらおじさんは話を続けた。
「グライダーは風にうまく乗ることで空を飛ぶ、という事は、グライダーを風が流れる高さまで持っていかないとならない。
しかしご覧の通り、その為の発射台がまだ完成していない。
なので…今回は、グライダーを凧にします」
「「凧??」」
僕とシーナの声がハモった所で、おじさんは助手さん達を呼び寄せて、太いロープをグライダーの至る所に結び付けた。
「いいかい、僕らがロープを引っ張って走る、サザンは羽が風を受けるように向きを調整しながらゆっくり駆けなさい。
シーナ、君も引っ張るのを手伝っておくれ」
自分にもお手伝いのお声が掛かって、シーナは嬉しそうに頷いた。
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