漆黒の王女〈前編〉
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アストラおじさんが村にやって来てから、1週間が経とうとしていた。
開港祭から帰ってからの僕は、アルテから手渡された乗り物の本を片手に頻繁におじさんの元へ赴き、グライダーや海の向こうの話を聞いた。
シーナも僕と一緒に付いてきたけど、僕達の話に混ざるでもなく、修理されていくグライダーをぼんやり見つめているのが多かった。
「直している内に分かった事なんだけど…
そのグライダー、通常より少し小さめに造られているようだね。
おそらく子供用…今のサザンの体格にちょうどいいんじゃないかな(笑)」
おじさんの言葉に、シーナはますます考え込んでしまったように見えた。
「シーナ」
なんだか心配になって、シーナに声を掛ける。
最近シーナは、額の生え際をしょっちゅう撫でる。
「ちょっと痒いだけ」と言うから虫にでも刺されたのかと思って見せてもらったけど、特に何もなかった。
何もないのに? 何故だろう。
「うん? 大丈夫だよ」
シーナは微笑んで、またグライダーに目をやった。
「おじさま…もし私があのグライダーを使ったら…危険?」
シーナの質問に、おじさんは唸った。
「うーむぅ…大人の男は間違いなく飛べないだろうなぁ。
シーナの物って聞いてるけど、シーナの身長にも合ってない気が…
使ってみないことにはわからないけどね。まぁ、直ったら試してみようか」
「…そうですね…じゃあ私も、サザンと一緒に本を読んで乗り方を予習しないと(笑)」
そう言ってシーナは、僕の横からひょいと本を取り上げて、グライダーのページを開いた。
僕はもう何十回も読んで、頭の中でシミュレーションしていた。森の上を飛ぶ僕。想像するだけでワクワクする。
「もし飛べたら…何か思い出せるかな…」
シーナが切なそうに呟いて、僕ははっとした。
記憶の収集を焦っているように見える…いいよ、そんなに急いて思い出そうとしなくたって。
何故そう思ったか…シーナが突然いなくなりそうな、そんな予感を抱いてしまったんだ。
…