漆黒の王女〈前編〉

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「あっほら、いたわよ! もうっ、どこ行ってたのよあんたは」

 角を曲がった所でサザンとアルテの後ろ姿に出くわして、声を掛ける前に二人が振り向いた。

「ごめん、ごめんね。パンのにおいがしたから、どこかな~と思ってフラフラしちゃって…」

「あ、このパン屋さんからのじゃない? 実は僕も気になってた」

 サザンが指を差す。お客さんがちょうど出てきて扉が開いた時に、私が探していた芳ばしい香りが漂った。

「うんこれこれ。この町一番のパン屋さんだって。さっき道を教えてくれたおばあさんが言ってた」

「へぇそうなの? 私初めて来たわ。
 ママにお土産に買ってってあげよう。あんた達も親方やおかみさんに買ってけば?」

 そう言ってお店に入っていったアルテの後に続く。

 中で食べられるカウンター席もあって、私達はお土産用の他に自分達が今食べる分も買って、休憩がてらそこで食べていった。

「あんた達、いつまで町にいれるの? 夜のお祭りも行ける?」

 アルテがこの後の時間も誘ってくれたけど、おかみさんが夕暮れ前に迎えに来てくれる事になっていた。

 陽が完全に落ちる前に村に着いておきたい、暗い森の中を馬車で行くのは危険だから。

「なぁんだぁ。まぁ、しょうがないわよね。
 じゃあもう、おかみさんが来てるかもしれないじゃない。急いでうちに戻りましょ」

 そう言ったアルテは少し寂しげで、窓の外を見やった。陽が少し傾きかけていた。



 本部に預けていた荷物を受け取ってアルテの家の建屋に戻ってきた。

 初めに来た時と同じに階段をキョロキョロと探していると、

「あんた達ナニやってんのよ、こっちよこっち」

 アルテが呆れるように言ったと同時に、チンと音が鳴って扉が開いた。

「さあ乗って。知らないの? エレベーター。
 ってそうよね、私だってここに引っ越して来るまで知らなかったし。
 便利でしょ、ここにしかないのよ。ほら、パパの研究所が5階のフロア全部で…毎日研究資料とか運ばれてくるから、パパが作ったのよ」

「「わぁお」」

 仕組みはよく分からないけれど、この四角い空間が一気に上まで私達を運んでくれるという事に、私とサザンは驚きを隠せなかった。

「ふっ…あんた達、面白いわ。
 あーあ、もっと色々見せてあげたいのになぁ」

 アルテはまた、寂しそうに呟いた。





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