漆黒の王女〈前編〉
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私はどきっとした。
ベスタおばさまのショールが外れた? と思って頭に手をやる、でもショールはちゃんと私の黒髪を覆ったままだった。
なんでわかるんだろう。
おばあさんはまたふぇっふぇっと笑った。
「この水晶玉で何でもお見通し…というのはさすがに大袈裟だが(笑)
でも、不確かだが何となく視えるのさ。
黒髪に黒い瞳…60年この商売をやっていて初めてお目にかかったが…まぁそう気にすることもない。
同色人種は本当に沢山いる。
金髪金色の瞳なんかもいてねぇ、そりゃもう目が潰れそうになるかと思うぐらいの眩しさだったねぇ(笑)」
「あは…そうなんですね(笑)」
緊迫した空気にならないようにしてるのか、おばあさんの話の結びがいちいち面白い。
でもそれは、そこまでだった。
おばあさんの顔がどんどん険しくなり、腫れぼったいまぶたを上に押し上げて、灰色の瞳を覗かせた。
「しかし、不思議とその手の人間は…数奇な人生を送るのが多い…
…おじょうさん、よっぽど誰かに恨まれているのかえ?
前髪の生え際、気付いておるか?
小さな、目立たない傷がある。
これは古い呪いの一種だ。
どんな事を込めたかは分からないが…気を付けなされ。
近い内にこの呪いが発揮されそうだ」
心臓がバクバクする。
突然突きつけられた、予言みたいなもの。
鵜呑みにするべき? 聞き流すべき?
自分の正体がまだ分からない私、どちらが正しい選択なのだろう…
「誰かがおまえさんを呼んでるよ…ほぅら、すぐそこまで…」
おばあさんがそう言いかけた時に、「シーナぁ~!」とサザンとアルテの声が遠くから聞こえた。よかった、二人と合流出来る。
「すごいおばあさま、二人が来るの分かったの?
色々ありがとうおばあさま、忠告、覚えておきます」
サザン達が行ってしまわない内にと、私は早口で喋って、声のする方へ駆け出した。
だから、おばあさんが最後に何か言ったのにも気付かなかった。
「…視えたのは、大柄の男っぽかったけどねえ。
それにしても…
おばあさまだって。
ふぇっふぇっふぇ(笑)」
…