漆黒の王女〈前編〉
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メイン会場だけではなくて、港への道すがらにも、お祭りの為の屋台がちらほら出ていた。
花飾りのお店でアルテが夢中になって、サザンがあくびをしながら退屈そうに待つ、その最中でふと、いいにおいが私の鼻をくすぐった。
「わあ…どこからかな…」
パンの焼けるにおい。私はフラフラとそのにおいを辿った。
が、突然においがパッタリと消えて…
「あれっ…ここ…どこ?」
我に返る。陽が差さない路地裏に迷い込んでしまった。どこから来たのかも分からなくなってしまってる。
もう子供じゃないのに…情けない。
途方に暮れていると、すぐそこの扉がキィ、と静かに開いて、フードを深く被ったしわくちゃのおばあさんが顔を出した。
「おやおや…かわいらしいおじょうさんが迷い込んできたねぇ…いらっしゃい」
「え? あ、えと、こんにちは…え、いらっしゃい…?」
私が混乱してあわあわしていると、おばあさんはふぇっふぇっと笑う。
「一応占いの店なんだよ。
おまえさん、この町の者じゃあないね?
お祭り目当ての観光人だろうが、なにもこんな辺鄙なトコをうろつかんでも(笑)」
手乗りサイズの小さな水晶玉を私の顔の前にかざして、また笑いだした。
「いやあの…パンのいいにおいがしたので…辿ったらこんな所まで。
あのおばあさま、この近くにパン屋さんとかありますか?」
「あぁあるよ。
この道を向こうへ真っ直ぐ…二つ目の十字路を左に曲がってすぐの所に。
この町一番のパン屋だが…立地が悪くて客の入りがイマイチなのがもったいない(笑)」
サザン達がいる通りからどれくらい離れているのかな。急にいなくなって心配しているだろう…すぐに合流できるといいけど。
考え込んでいると、おばあさんが水晶玉越しに私をじっと見た。
「ほぉ…おじょうさんは、同色人種かえ?」
…