漆黒の王女〈前編〉
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「あーらら、お客さん逃げちゃった。アルテが恐いから(笑)」
「うるさいサザン、あんなの客じゃない」
おどけて言うサザンをバッサリ斬って、そして横目で私をジロリと見た。
「あんたの事触ろうとしてた、気付かなかったの? ばかねぇ。
ふざけんなって思って、脛を静かに蹴ってやったわ。
隙を見せたらダメよ。あんた、ただでさえビジョで目を引くんだから…
ヘンな輩には毅然な態度を取らなきゃ、すぐつけあがるんだからね?」
アルテはとうとうと説く。言葉はきついけど、優しさが見え隠れ。
「ふふ…アルテ、おかあさんみたい」
「え? あ、あらそう? …じゃなくて。
あーもう。あんたの方が年上でしょうが。
しっかりしなさいよ、次はもう助けないからねっ」
「ふふ…はぁい」
「ったく、世話の焼ける…サザンが二人いるみたいだわ」
顔を赤くして、ぶつぶつ言いながらアルテは呼び込みに戻った。
振り返ってサザンを見ると、肩を揺らして笑いを噛み殺している。
「いつもああだよ、世話焼きのアルテ、口煩いのがたまにきず(笑)」
「こらサザン! 聞こえてるよ!」
そんな…すったもんだがありつつ(笑)、私達は無事に商品を全て売り捌く事が出来た。
「さあ、すっかり売り切れたし、ここからはうんと楽しむわよっ」
「はいはい。おー」
「おー(笑)」
すっかり片付けが済んだ私達は、大きい荷物を会場の本部に預けてお祭りを回ることにした。
さすが港町、物珍しい、海を越えた品々が沢山店先に並ぶ。
おかみさんからお小遣いを貰っていたので、美味しい食べ物や飲み物、手作りの可愛いブレスレットなんかも買った。
何か、私の記憶に引っ掛かるものがあるかも…と期待したけれど、出逢えなかった。代わりに、
「あっシーナ、見て見て! これ、アレにそっくりだよ?」
サザンの指が差した先には、私のグライダーによく似た乗り物の小さなオブジェ。
「それは飛行機ってんだ。
俺は見た事はないが…海の向こうではじゃんじゃん飛んでるってよ。
これの何千倍も大きくて、ほれ、ここに沢山人が乗って…山をひょいと越えるって話だ。
海も越えてきたらいいのになぁ。そしたらこの町ももっと賑わうに違いねぇ」
店主のおじさんがタバコをふかしながら話してくれた。
サザンは目をキラキラさせながら、その飛行機のオブジェを購入した。
「あんたって、ヘンなのばっか好きねぇ。それのどこが楽しいんだか」
「ふふふ、アストラおじさんに見せてみよう。きっとこの乗り物の事も知ってるよね。あ~早く聞きたいな」
二人の全く噛み合わない会話が面白い。
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