漆黒の王女〈前編〉

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 サザンの短い休憩が終わり、私達は再び歩き出した。

 また入り組んだ、住宅街の細道を入って…やっと建物が視界に入らなくなったと思った矢先、あっという間にその場の喧騒に紛れた。

 そう、そこは開港祭のメイン会場。沢山の屋台が犇めき合っていた。

 ちょうどスタッフの人がすぐ傍にいたみたい、アルテが話しかけて、許可証にサインか何かをしてもらっていた。

「あっちの方に空いてる場所があるらしいわ」

 人の流れに逆らって会場の隅まで来ると、一気に人気が引く。商売をするには向いてなさそうな場所だった。

「もうっ…サザンがもたもたするから、変な場所しか空いてなかったじゃないのよ。
 こんな所でお肉なんて売れるの?」

 アルテが腰に手を宛がいながらサザンに溜め息をつく。

「まぁ…大丈夫大丈夫。とりあえず準備しないとね」

 サザンが脇に抱えていたふたつのクーラーボックスを置いたので、合わせて私も持っていたクーラーボックスを並べた。

 それから、サザンがリュックの中から色んな物を出す。幾つかのブロック、炭、紙屑、マッチ、網、まな板、ナイフ…

 サザン、リュックにそんなに詰め込んでたんだね。やっぱり私がひとつ持つべきだった。

 何故言ってくれなかったの、聞いた所で「いいから」って言うに決まってるから、私は黙ってる事にした。

 サザンは器用に小さなかまどを作り、上手に火をおこした。

「サザン、どうするつもりよ?」

 もくもくと昇る煙が目に染みるのか、アルテが嫌そうに目を細めながら聞く。

「何枚か試食用で焼くんだ。シーナ、アルテ、お肉出してナイフで切ってくれる?」

「うん。わかった」

「うえ~っ、私も? しょうがないなぁ、ママにも言われたからやったげるわ」

 私は三つのクーラーボックスの中からひとつずつ、きれいにラップされた獣肉を取り出した。

 イノシシとシカとキジの肉、おかみさんお手製のタレに何日も漬け込んで出来た加工品。

 ラップを外して、私とアルテで細かく切る。それを片っ端からサザンが網に乗せて焼く。

 やがて食欲のそそる肉のいいにおいが漂って、何人かの人の足を止めた。





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