漆黒の王女〈前編〉

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 私が追いついたのを確認すると、アルテはまた早歩きになって、私達が来た道とは違う道を選んで突き進んだ。

「ちょっとアルテ? おじさんの地図と違う方向行ってない??」

「こっちが近道。どうせパパ、分かりやすい大きい道しか書いてないんでしょ?
 ちゃんとついて来ないとすぐはぐれるよ」

 肩越しに私達をジロッと見て、住宅街の細道を縫うように歩いていく。

 ちょっぴり勾配があって、階段を何ヵ所も上ったり下ったり。

 その内に荷物二個持ちのサザンはへばってきて、「ちょ…水飲ませて…」とブレイクを求めた。

「なっさけな、男のクセに。シーナはピンピンしてるよ」

「ほらサザン、やっぱりひとつ私が持つから…」

「だめっ。僕が最後まで持つの。水飲んだらすぐ出発するからね」

 アルテと私が代わる代わるに言うのをバッサリ斬って、サザンは一旦クーラーボックスを地面に置いて、リュックから取り出した水をグビグビと飲んだ。

「ふっ。へんなプライドだけは相変わらずだね。
 昔っからこうよ。お姉さんにお世話されっぱなしじゃ悔しいとかなんとか言ってさ」

「いつもこうなんだ、同い年なのに姉さんぶってさ」

 二人に両サイドから同時に言われて若干混乱した。んっ、今、同い年って言った?

「あっそうなんだ…てっきりアルテが少し上かと」

「ぶふっ。あっはは。あんた、意外と言うね…わっはっは!」

 おなかを抱えてアルテが笑う。サザンはぶすっとして水を飲み干すまで黙った。

「あんた…悪い人じゃなさそうね。
 最初にパパに聞いた時は、サザン絶対たぶらかされてると思ったのよね。
 パパってば【キレイでいい子だよ~】ばっか言っちゃってさ」

 はは…おじさま、そんな事言ったんだ。と、またここで疑問が沸く。アルテ、いつおじさまと話した?

「おじさんと話したって? そんなのウソでしょ。
 村に来てからずっとキャンプ張ってるし、手紙書いたとして、今日集配人さんこの町宛の手紙持ってなかったよ?」

 サザンが私の疑問を代弁する。

「ふっふっふ…我が家には通信機って便利なもんがあるのよっ」

 アルテは不敵に笑いながら言った。

「通信機? なんじゃそりゃ」

「遠くにいてもその機械をお互いが持っていれば話が出来るのよねー。
 知らないのも無理ないわ、パパが海の向こうから持ち込んで…」

 海の向こう…

 私はふと、親方が言っていたのを思い出す。

【海を越えて来たのかも知れないな】

 今おじさまがグライダーを調べてくれているけれど、海の向こうを知っているおじさまなら、私の素性も解き明かしてくれるかもしれない…

 そんな事を考えながら、建物の間からわずかに見える海をぼんやり見つめた。





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