漆黒の王女〈前編〉
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「会場までの案内をアルテにさせるわ。
アルテ、二人をきちんと送り届けて、仕事のお手伝いもなさい」
「えぇーっ、お祭りを楽しもうと思ったのにっ」
「パパからの指令ですからね」
「そーゆー事だけは覚えてるんだから…
もう、分かったわよっ。お手伝い済んだら、二人と回ってもいいでしょう?
さぁボヤボヤしてないで、とっとと売り捌くわよ! 私にしっかりついてらっしゃい、サザン! シーナ!」
ベスタおばさまの言い付けを渋々承知したアルテ、鼻息を荒くしながら先に歩いていった。すっかり私の事も呼び捨てだ(笑)
「待ってよアルテ。じゃあおばさん、また後で」
ベスタおばさまに一旦別れを告げて、サザンと私は大股で歩くアルテの後を追った。
「あっ待って。シーナちゃん、よかったらこれ、使いなさい」
ベスタおばさまが駆け寄りながら、シュルッと肩に掛けていた空色のショールをほどいた。
それを私の頭にフワリと乗せて、顎の下で軽く結わく。
「今日は陽射しが強いからね。
美しくて隠すのもったいないけど、黒は熱を吸収しちゃうから。
倒れないように気を付けなさい」
おばさまの心遣い。ショールからほのかに香る香水のにおい。どれも優しくて、心がぎゅっとなった。
「ありがとう…おばさま。いってきます!」
「シーナぁ! チンタラしてないで、さっさと来ないなら置いてくよ!」
おばさまに軽く手を振りながら、アルテとサザンの元へ急いだ。
「もう…あの子ったら。
人沢山だから気をつけてね。お祭り楽しんできてからゆっくり戻ってらっしゃい」
アルテの鋭さに苦笑いをしながら、おばさまは手を振って私達を見送った。
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