漆黒の王女〈前編〉
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アルテは今度は私の前に立って、爪先からゆっくり私の身体を這うように見る。
アルテの視線が上に上がるにつれて、水面が波立つみたいな振動を感じて(私の気のせいと思うけど)、私は無意識に鎖骨より上を後ろへのけ反らせた。
私と目が合った所で、アルテの様子が変わった。
瞳を軽く見開き、僅かに息を飲んだ。
やっぱり、黒髪と黒い瞳は気持ち悪いのかな…
アルテの黄色い瞳に私の黒が映る、今までに無いくらいはっきり映っていて、そこには冴えない顔の私がいた。
「こらアルテ、いきなり失礼でしょう。
娘がごめんなさいね。あなたがシーナさんね? 主人から聞いてますよ」
アルテを一歩後ろに下げながら、ベスタさんが私に優しい笑顔を向けてくれた。
「あっはい…ご挨拶が遅れてすみません。
初めまして、シーナです。お逢いできて嬉しいです、おばさま」
「あらー、まあまあ、おばさまだって。うふふー」
おじさまと同じ様な反応をするベスタさん(笑)
ふとサザンの方を見ると、アルテからドスッと脇腹に肘撃ちを食らって「いたっ」と呻いていた。
そんなサザンを無視して、アルテは私の顔を見つめたまま、
「サザン…キレイなヒトじゃないの。アンタのお姉さんと同じくらいビジョじゃないのよっ」
とコッソリ言っていた。(聞こえてたからコッソリじゃない)
後からサザンに聞いたけどアルテは、男女問わず、ヒトモノ問わず、美しいものが大好きだそうな。
「こんな所で立ち話じゃなくて、どうぞうちにお上がりなさいな」
ベスタさんがお誘いしてくれたけど、サザンはそれを断った。
「おばさん、後でまた寄らせて貰ってもいい? 僕達、この町で肉を手売りしなきゃなんだよ。
今来たのは、商売許可証をおばさんから受け取りなさいっておじさんが言ってたから」
「そーよママ、パパに言われてたのに忘れちゃって。ホラ、私が持っといてあげたわよ」
アルテが誇らしげに許可証の紙を掲げて見せた。
…