漆黒の王女〈前編〉

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 アストラおじさま達がやって来てから二日後に、私とサザンは開港祭が催されているルニアの町へ足を運んだ。

 ただ遊びに行くだけではなくて、

「サザン、シーナ、ついでで悪いんだけどねぇ、仕上がった肉が貯まってきたからさ、町で売ってきてくれないかい。
 アタシも別の所で捌いてくるからね」

 と、おかみさんのおつかいも果たすように言われていた。

 ルニアの町へは集配人の馬車に都合よく乗せて貰えた。

 商売用の馬車もあるんだけれど、それはおかみさんが使うので、帰りはルニアの町まで迎えに来ると言ってくれた。

「わあっ」

 集配人の馬車が森を抜けると、そこから緩やかな下り坂になっていて、道がくねくねとカーブを描いていた。

 その終点がルニアの町、そして海だ。

 空と海の境目を日光が反射して、キラキラと輝いていた。

「シーナは海初めて?」

 サザンが聞いてきたけど、うーん、どうなんだろう。

 海というものが何であるかは分かるけど…初めて見るんだろうか。

「どうだろうね…思い出せないよ」

 海の彼方をぼんやりと見つめながら答えると、

「実は僕、見るのも傍まで行くのも今日が初めてなんだぁ。
 シーナもそうならいいのに、そしたら僕達仲間だよ(笑)」

 冗談っぽくすがって言うサザンが可笑しくて、そういうことにしておこうかなと考える(笑)



 やがてルニアの町の入口に到着して、私達は馬車を降りた。

 大きなクーラーボックスをみっつ持ってきていて、ひとつを私が、ふたつをサザンがたすき掛けに抱える。

「ねえサザン、私がふたつ持つから」

「だあめ、僕の役目なんだから。シーナは気にしないで!
 あ、地図は持っててもらってもいい?」

 サザンが大きい声で反論するので、小さなサザンと大きいクーラーボックスのアンバランスさに冷や冷やしながらも、見守ることにした。

 アストラおじさまが書いて渡してくれた地図を見ながら、町の中を突き進む。

 まずはアストラおじさまの家に顔を出すらしかった。





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