漆黒の王女〈前編〉
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村に帰るや否や、親方はアストラおじさん宛に手紙を書いた。
「明日がちょうど集配人が来る日でよかったなぁ」
蝋で封をしながら親方は言った。
「ねえサザン、おじさんって?」
今日狩った獣肉をおかみさんと処理しながらシーナが聞くので、僕はダイニングテーブルで頬杖をつきながら答える。
「アストライアンっていうおじさん。長いからアストラおじさんね(笑)
昔この村に住んでたんだけどね、沢山研究するには狭すぎるからって、向こうの港町に引っ越しちゃったんだ」
「研究? どんな?」
「色々。他の町の事、別の大陸の事、世界の事、海の事、空の事、人が造った物の事、昔から在る物の事…
あの黒い機械の事も、もしかしたら知ってるかもしれないよ」
「ふぅん…そっか。あれが何なのか、分かるといいね」
「うん」
なんだか他人事みたいに言うシーナ。それも仕方ないのかもしれない。記憶を無くしている状態の今は、自分のだと言われても実感がないんだろう。
「ね、シーナ。シーナはアレ何だと思う?
僕はねぇ、アレが空飛ぶ乗り物だといいなぁ。
鳥みたいな形なんだもん、飛ばなかったら詐欺だよ? ねぇ」
僕の言葉を聞いて、シーナが吹き出した。「詐欺って(笑)」と言って、いつまでも肩を揺らして笑う。
そんなシーナを見て僕も笑顔が零れて、そのまま続けた。
「そしたら、もしも飛べたらね、森の上を飛んで、親方の描いた地図が正しいか見るんだ」
「ふふ…そうだね、そうだといいね」
そこまで話した所で、おかみさんがパン! とひとつ手を叩いた。
「さぁ今日はここまで。ほら、外は陽が暮れたよ。二人とも早く家に戻りな。
あっお待ち、これ晩ごはんに、持っておゆき」
おかみさんがたっぷりシチューの入った鍋を渡してくれて、僕達はホクホクしながら家に帰った。
シチューを食べながら、そして食べ終わってから眠りにつくまでの間もずっと、僕とシーナは黒い機械について話し合った。
と言っても、僕が、ああだったらいいこうだったらいい、と希望を並べ立てるだけで、シーナはそれをうんうんと頷いて聞くだけで、
「そうだね、詐欺じゃないといいね(笑)」
ばかり言って、言う度笑いで肩を揺らしていた。
そう言うシーナの顔が穏やかで、なんかもう、それだけでいいやって僕は思った。
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