漆黒の王女〈前編〉
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そして僕達はまた、森の奥へと進んでいく。
例の鉄と油のにおいが風に乗ってやって来て、
「こっち」
と、今度は僕が先頭になってシーナ親方の順で歩き始めた。
「サザン、もう少しゆっくり歩いてくれ。今の内にここら辺りの地図をラフせにゃ…」
前回来た時の製図が途中だった親方は、いちいち立ち止まって筆を走らせていた。
親方の歩調に合わせて、だんだん例の場所に近づく。
「ここはどうしてこんなに静かなんだろう」
シーナが誰にともなく問いかけた。
シーナも感じるんだ、動物の気配が無いのを。親方の言う通り、シーナには猟の才能があるのかもしれない。
「さぁ、着いた! ほらシーナ、アレだよ」
「うわっと」
親方を置いてシーナの手を引っ張って、拓かれた空間へ導いた。
日陰から日向へ、明るい空の下へ晒されたシーナは眩しそうに目を細めた。
その視線の先は…変わらず木に引っ掛かっている【黒い鳥みたいな機械】。
「どう…シーナ? あれは…シーナの物?」
シーナの表情を見ながら、僕は固唾を飲んでシーナの返事を待つ。
シーナは随分長いこと黙っていたけど、やがて「わからない…」と呟いて、ちょうど親方が僕達に追いついたので、
「もっと近くで見てもいいですか」
と親方に言った。
「好きなだけ見るといいさ。俺もサザンも、まだ丹念には調べてないからな。何か手掛かりがあるといいな」
僕とシーナの背中を優しく押しながら親方は言った。
3人で黒い機械に近づいて、各々木に登って機械を直に触った。
「本当、聞いた通り鳥みたい。あの布が翼みたいに広がるんだろうね…軸みたいのが折れ曲がっちゃってるけど。
それに、なんでこんなに全部真っ黒なんだろう。ちょっと恐いね…」
シーナが最後の方を苦笑いしながら言ったので、自分の髪と瞳の事を掠めたんだと悟った僕は、
「そんな事ない! 綺麗な…黒じゃないか」
思わず声を張り上げて言った。
それを聞いたシーナは目を丸くして、でもすぐに首を横に振る。
「ふふ…でもねサザン、動物の気配が無いのは、コレを恐れているからじゃないかな…」
シーナも僕達と同じ様に考える、口をつぐむしかなかった。
…