漆黒の王女〈前編〉
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森を射す光の線が多くなって、お昼に近い事が分かった。
それまでに親方と僕は鹿と鴨を狩っていて、一旦休憩所の小屋に置くことにした。
そこでおかみさんが持たせてくれたお弁当を3人で食べる。
その間、シーナが目を輝かせて僕達の猟の様子を賛辞した。
「私にも出来るかな?」
「へっ?」
「わははははっ!」
目を丸くする僕と、大口開けて笑う親方。
「どうだろうな…シーナは器用そうだしタッパもあるし、教え込めば意外にモノになりそうかもなぁ。
だがなシーナ、猟師が多過ぎてもいけねぇよ。
森の命を少しずつ分けて貰って、俺達は生きているんだ。
おまえさんは、命を取るというその重さに…耐えられるか?」
「………」
親方の言葉にシーナは考え込む、でも視線は親方を捉えたままだ。
わからない、と呟いた後、シーナはこう続けた。
「でも親方、私、サザンや親方達にいっぱいお世話になってるから、何かの形でお返ししたい。
それが猟のお手伝いならって…思ったんです」
「…ふふ、ありがとうよ」
親方は目を細めて、もじゃひげを撫でる。
「そう思ってくれてるのなら、シーナはうちのかみさんの方を手伝ってくれんか。
俺達が狩った獣肉はな、うちで処理や加工をして町へ…」
親方がしてくれる説明を、シーナは真剣な眼差しで聞いていた。
僕もかつてこんな風に親方に説明を受けたけど、シーナと同じような姿勢で聞いてただろうか?
親方の【森の命を貰う】っていうフレーズにドキリとして、何も考えてなかった猟の見習いを始めたばかりの頃の自分自身に、妙に腹が立った。
説明の合間に、親方がこう零した。
「シーナの黒い瞳は、見た事聞いた事、何でも吸い込みそうだ。まるでブラックホールだな」
「「ブラックホール? って?」」
僕とシーナが同時に聞く。
「宇宙のどこかにあるっていう、何でも吸い込む黒い穴って話さ」
そうかもしれない、と僕は思った。シーナはどう思ったかは知らないけれど。
…